きっと夢中にさせるから


・鮫柄学園との合同練習、翌日の話
・複雑な幼馴染関係注意


「・・・え、凛!?」
「よお。」

普段通りの今日。普段通りの部活終わり。普段通りのメンバーで普段通りの帰路に着こうと校門をくぐると、普段は会えない、白ラン姿の男の子が目の前にあらわれた。

「・・・凛」
「凛!」
「凛ちゃん!」
「お兄ちゃん!」

若干一名、怜くんはまだ一度しか面識がないが、他のメンバーはよく知っているその赤い髪。
鮫柄学園は全寮制だから、こんな風に岩鳶町で会うのは、私は初めてだ。

「悪いな。俺はお前らに用は無ェんだ。」
「え?」
「いくぞ、陸。」

ぐい、と腕を引っ張られてそのまま帰り路とは反対方向に歩きだす。
な、なんだ、どうしたんだ凛は。

凛と私は幼馴染だ。
といっても、普通の"幼馴染"とは少し違うと思う。私達の関係は若干複雑だ。
私と凛は、岩鳶町とは違う場所で産まれた。家がお隣さんだったので、いつも一緒に遊んでいた。凛は小さな頃からスイミングスクールに通っていて水泳が大好きだった。私はそんな凛を見るのがだいすきだった。あまりにも彼が楽しそうに泳ぐもんだから、私も泳いでみたくなって、凛とコウちゃんと一緒に市民プールに行ったこともある。私はカナヅチで泳ぐどころじゃなかったけど(凛には終始爆笑された。でも泳ぎ方を呆れもせずに教えてくれた辺り、優しいと思った)。

しかし、小学校の中学年の時、凛は引っ越していってしまった。
私はお別れの時もずっと涙を止める事が出来ないでいて、逆に凛に慰められるという何とも情けない状態のまま、別れることとなったのだ。
それから高校一年まで、私は凛とコウちゃんのいない毎日を送った。
コウちゃんは本当に、頻繁に手紙やメールをくれた。最初の頃なんて一日に二通も来てたんだから!
凛も最初はよく手紙をくれた。
引っ越した先で泳ぎの上手な子がいてさ、七瀬って言うんだけど!
変わらない凛に安心した。
しかし、中学一年の冬頃から、凛からの手紙やメールがぱったりと途絶えた。
こちらから連絡しても、返って来る事はない。不安になってコウちゃんに話してみても、凛は今オールトラリアに水泳留学中でよく分からない、という答えしか返って来なかった。

それから三年後、高校二年生になる春休みに、お父さんの仕事の関係で、私は岩鳶町にやってきた。
最初に引っ越し先を聞いた時の驚きは本当に凄かった。まさか聞き慣れた土地の名前が出てくるなんて予想もしてなかったからだ。
そして私は岩鳶高校に入り、水泳部のマネージャーになった。
凛との再会は、鮫柄学園との合同練習の時だった。お互いただただ吃驚して、目があったまま(真琴くんが言うには)5分ほど固まっていた。似鳥と呼ばれる一年生に声を掛けられて我に返った凛は、そのまま何も言わずに去って行ってしまった。コウちゃんによると室内プールの二階から見学はしていたらしいけど。
そんな感動(?)の翌日だというのになんだこの普通さは・・・!

電車に乗って、バスに乗って、
私と凛は街にあるわりと広めのショッピングモールに着いた。

「陸。」
「はい?」
「暑いな。暑いよな。」
「は?・・・はあ、まあ。夏ですし。」
「ちょっと待ってろ。」
「へ?」

そのまま凛は手を離して何処かへと歩いて行ってしまった。

「ちょ、調子狂うなあ・・・・」

昔から何かと行動派な所はあったけど、そう言うのって成長と共に直るもんだと思ってた。逆に悪化してるんじゃないか。
後ろを振り向くと、大きな噴水が目に入った。遙くんの影響じゃないけど、何となくそちらの方へ魅かれる様にして歩きだす。
噴水にぱしゃりと手を入れる。意外にも水は冷たくて驚いた。
部活の皆でここに来たら、遙くんはここでも泳ごうとするんじゃないだろうか。それを慌てながら止める真琴くんの姿が目に浮かぶ。

「かーのーじょっ!」
「え?」
「一人なのー?」
「俺らと一緒に遊ぼうよ!」
「あ、あの。」

数人のいかにも軽そうな男の人達に見下ろされる。後ずさりしようにも背後には噴水の気配。どうしよう。

「彼女も俺らと一緒に遊んだほうが楽しいでしょ?」
「んじゃいこいこ!ほーら……」
「ひえっ・・・」

腰に手を回されて強い力で抱き寄せられる。もう一人の男の人には手をとられて、完全に逃げ道を失った。

「あ、ああああの、ちょっとちょっと」
「何してんだテメーら。」
「!?」

ドスの利きすぎた低い声に、男の人達以上に私が悪寒を感じてしまった。
急に空気がピリッとした緊張感に包まれる。凛がずんずん近づいて来て、私には振り解けなかったその手を一瞬にして離させた。
凛はそのまま私の手を握って歩き出す。ありがとうって言わなきゃとか、怒られるんじゃないかとか、もう色んなことが頭の中でぐるぐる回ってぐちゃぐちゃになって、ただただついていく事しか出来なかった。

「おい」
「あ、ああああの凛ごめんなさ」
「これ」
「・・・?」

いきなり止まったかと思えば、ペットボトルのオレンジジュースを手渡された。
冷たいそれは、私の空いた片方の手にずしりと重みがかる。

「・・・覚えててくれたんだ」
「ん?」
「私が、オレンジジュース好きってこと。」

お礼よりさきに、そんなどうでもいい言葉が私の口から毀れた。色々考えていたこととか怖かったこととかが上手く消化されなくて、どんどん視界が霞んでいくのが分かった。

「お、おい!?」
「う、ひっ・・・ありが、と・・・凛っ・・・。」
「ちょ、・・・泣くなよ。」
「ううっ、うううう」

出て来た涙を受け止める様に、服の袖で拭われる。
霞む視界の中で見える凛の表情は昔と何一つ変わってなくて、今まで感じていた不安を打ち消してくれた。

安心したら、また涙がこぼれた。


「泣くなって・・・。困るだろ。」
「ご、ごめっ・・・ううっ」

凛が遠慮がちにもう片方の手を伸ばして来て、頭をゆっくり撫でる。
たまらず彼に抱きつけば、拒むことなく受け入れてくれた。

「陸。」


その声を、待っていた。
―――――――――――ずっと。







おまけ

「で、何買いに来たの凛。」
「……ス」
「成程スポーツ用品店ですね。ここのって広いの?」
「まあそれなりにな。」
「じゃあ今度皆で来てみようかなあ。」
「水着は置いてないけどな。」
「え、じゃあ何?なんで凛行きたいの?」
「俺が行きたいのはスポーツ用品店じゃねえ。



スーパーだ。」
「(ここに来た意味やいかに……!!)」




凛ちゃんが魚類コーナーで真剣に今晩の魚選びしてたら可愛いと思います。


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