終わらない恋になれ
・お化け駄目主
汗ばむ手、視界を占めるはいかにも出そうな建物、隣には真琴くん。
「ど、どうしてこうなった・・・!!!」
とりあえず、全力で逃げたい。
私達水泳部は今日、渚くんの提案で休日を利用して遊園地に来ている。
休日って言っても、今日はちょっと肌寒くて(天気もどんよりだし)水温チェックがクリア出来なかったから急遽お休みになったってだけの話なのだが。
ジェットコースターとかバイキングとか色々乗って、さあ次はってなった所でまたもや渚くんが言いだしたのだ。
『お化け屋敷いこうよ!』
『『えええええっ!!!』』
『なんでー?あ、まこちゃんも陸ちゃんも、もしかして怖いのー!?』
『『そうじゃないけど!!!!』』
そして、公平なくじ引きの結果、私と真琴くんがペアになったのでした。
「めでたしめでたし。」
「いやめでたくないから!!これからだから!!」
きっと鏡で今の私の表情を見たら、誰もが引くことだろう。絶対、顔、死んでる。
真琴くんも小さい頃から体の大きさに似合わず怖いものが駄目だった。ホラーもののDVDとか見る時は、一緒になって遙くんにくっついてたっけ。何て言うか、真琴くんがお化けを怖がっている姿は本当に可愛かったのを覚えている。ぷるぷる震えながら私や遙くんにひっついて目をぎゅっと瞑る真琴くんは、本当にもう女の子なんじゃないかってくらい可愛くて、私も怖いなりに守ってあげたいなって、守ってあげなきゃって思ったんだ。
そんないつぞやの使命感が今また舞い戻って来たのかもしれない。気付けば私は口を開いていた。
「よし。とりあえず私が先に行くからついてきてね。」
「え、陸?」
「大丈夫だよ!怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない」
「な、なんか自分に言い聞かせてる様に聴こえるんだけど・・・。」
大丈夫ですよ。怜くんも言ってた通り、お化けなんてそんな目に見えない非化学的なもの存在する筈がないのだ。所詮昔の人が子供を躾ける為に作った妄想の産物でしかないのだよ!!!あ、なんか落ちついてきたかも。
よし、と思って一歩踏み出すと、腕を掴まれて折角踏み出した足が戻されてしまった。
「ま、真琴くん?」
「俺が先に行くよ。」
「え?な、なんで?」
「陸を先に行かせるなんて絶対だめ!!だったら俺がいく!」
その顔は、小さいときに見た可愛い真琴くんじゃなかった。
腕を引かれて、そのまま歩きだす。昔よりもずっと大きくなった彼の背中は、想像していた以上に大きかった。
ガサッ
「ってぎゃああああああああ!!!」
「だ、大丈夫だから陸!!!!!!おおおおおおち、おちおち落ちついて!!!!(ああああ当たってる…!!こ、怖いけどなんかこっちのがやばい…!!落ちつけ俺!!落ちつけ俺えっ!!)」
全力で真琴くんの背中にしがみ付いてしまった。い、今の結構怖いよ。いきなりリアルな造り物の腕なんか落とすもんじゃないよ!!
「じょ、序盤からこれって・・・!」
「はは、ハルと怜のペアは黙々を進むんだろうね…。」
「それはシュールな・・・ってひゃあああああ!!!」
「陸こここここれ音だけだよだだだだだだ大丈夫!!!」
でも怜くんは多分お化け怖がりそうだけどね。
そう言おうと思ってたら第二派が来た。お、音で脅かすのってひ、卑怯だと思うんだよね・・・!
「いやあ、人件費削減万歳・・・。」
「陸本当に大丈夫・・・?・・・・・・って」
私の方を振り返っていた真琴くんの顔が一気に青ざめていく。な、なんだなんだ、どうしたんです真琴くん。こ、これは振り返ったらまずいフラグだ。で、でも、青ざめてる真琴くんなんて珍しいし、ここは、私が・・・!
「「ぎゃあああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」」
それからの事はよく覚えていない。
振り返ったら地面を這ってる女の人がいてっ・・・!うわあ思い出すだけで鳥肌が止まらない。その後はもう私の手を引いて走る真琴くんに付いて行くのが精いっぱいだった。暗闇の中、光に向かって一心不乱に走った。
そんでそんで、今は・・・
「あれ?」
真琴くんに、抱きしめられてる
「ちょ、ちょ・・・と真琴くん?」
「はー・・・さ、最後のはちょっと、怖かったね・・・。」
「真琴くんあの、この状況は・・・。」
「え?・・・て、わああごめん!!!つい!!!」
次の瞬間には体が勢い良く離れる。
真っ赤になった真琴くんの顔を見て、思わず笑ってしまった。
「な、なにさ陸だって怖がってたじゃんか!」
「あはは、ごめんね。でも・・・っふ、あはははは!!」
真琴くんがうう、と唸りながら口を尖らせる。
しかしそんな表情もすぐに緩み、いつもの暖かい笑顔へと変わっていった。
彼の手がもう一度私へと伸びて、さっきよりも優しい力で包まれる。
「笑顔に戻って、よかった。」
「え?」
「俺さ、今かなり悔しいんだよね。」
「どうして?」
「何て言うか、俺、陸に頼られたかったんだよね。」
「わ、私に?」
「そうだよ。なのに私が先に行くー、とか言われちゃうし、ほんともう・・・。」
「え、あ、」
そうだったの。
まさかそんな事を思ってくれていたなんて知らなかったから。真琴くんの言葉がどんどん小さくなってくもんだから、私は慌てて口を開いた。
「でも、頼もしかったよ、ちゃんと。」
「え?」
「手、引いてくれたの、嬉しかったよ。あ、あと、励ましてくれたのも。」
「うっ(あれは俺への励ましでもあったんだけどね・・・!)・・・でも、ありがと。」
「うん!」
「でも俺、次ここ来る時までには克服しとくから!」
「え、え?」
「今度はちゃんと頼ってもらえるように。また一緒に来てよ、陸。」
その声がやたらに優しくて、私は頷くことしか出来なかった。
"また一緒に来てよ"
それは、ふたりでって、きたいしても、いいのかな。
おまけ
「どうだったのまこちゃん!折角僕が陸ちゃんとペアになれる様に仕組んどいたんだからさあ!」
「う、まあ・・・次回に期待って事で・・・。」
「えっ、真琴先輩お化け駄目なんですか・・・!?」
「陸も駄目だしな。」
「橘先輩、いいですか、幽霊というものは科学的に根拠のない…」
「・・・まあ、次回っていうか、もうお化け屋敷には入らなきゃいいんじゃないですか?」
「だめだよ!陸が苦手なものってお化け位しかないもん!」
「「「「え?(ま、まさかS…?)」」」」
「好きな子には・・・頼ってもらいたいよ。」
「あ、ああ成程ですね・・・。」
「良かった」
「え、何が?」
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