ゆず用 | ナノ




1.先輩を好きになったみたいです






高校を入学してから二年、冬。

今年は寒さが半端なく、マフラーに顔を深く深く埋める日も少なくはない。うん。寒い

ハァ、悴む手の平に息をかけて摩る。




「せーんぱいっ」



ぴとっ


ひぎゃあああああぁあああ!!


「わ、煩いですよ!」


冷たい何かが頬に触れて思わず叫ぶ。
聞きなれた声にくるりと振り向くと耳を押さえながらケラケラと笑う僕の後輩。

沢田、綱吉だ。



『っもー!驚かさないでよ・・・っ』


「ははっ、すみません。それより俺の手そんなに冷たかったですか?」


冷たい何かは、沢田くんの手だったらしい。
あれは冷たいって言うよりもまるで氷のようだった。


『もう、すっごく。氷かと思っちゃったよ!』

「そうですかねー?」


ピタ、と自分の頬に手をあてる彼。
そして「んー・・・冷たいのか・・・?」何て呟いている。
沢田君は全身氷の様に冷たいんだろうね、きっと。



『でもまぁ・・・冬だしね』


「でも先輩のほっぺた暖かかったです!」

ふわふわと笑う彼が手を伸ばす

私はその伸ばされた手を避ける。
あの手に触れたら今度こそ死んじゃう。色んな意味で。

彼は避けられたのが嫌だったのか少し口を尖らせ、その後でにやりと笑った。


「ねぇ先輩、俺の事、暖めてくれません?」


『っ!』


いつの間に、腰に手を回したのだろうか。
グイッと引き寄せられて、少し驚く


・・・何か、沢田君、変。


沢田君はこんな人だったっけ?
なんか・・・や、やらしい。

にやりと歪めた唇が、愉快そうに細めた瞳が、ふわりと揺れた柔らかな髪が。なんだか色っぽく感じて、くらりとする。

それに僕は、こんな黒い笑みをする彼を、知らない。

いつも頬を染めてフワフワ笑う可愛らしい彼しか、私は知らない。



『やっ・・・沢田くっ・・・』

彼の胸を押して必死に逃げようとするが、強い力で抑えられてびくともしない。
彼は愉快そうにニタニタと笑みを浮かべて私を見下ろす。そして唇を私の耳に近づける。


「ねぇ、先輩」


耳元で話し掛けられて、ビクリと反応してしまう。


『な、何よっ・・・』




「好きです」


ぴしっ


思わず固まる。


え、僕?え、え、








どぅえぇええぇえええ!!??



「っ!」


思わず叫ぶと彼がびくりと反応する。
かなり吃驚したらしい。彼のドクドクと鳴る心臓が服越しに伝わってくる。
あ、心臓の音はやーい。うん、ごめんね、うん。


いや、それよりも。




『す、すすすすすす好きって・・・えぇええ!///』


「ふふっ顔真っ赤ですよ、センパイ?」


可愛らしく笑う彼。
何だか白くなった気がするけれど、どっちにしても逃がす気はないらしい。
腰に回っている腕の力が少し強まったのだから。


「初めて会った日覚えてますか・・・?」

静かに囁く。

は、初めて出会った日・・・?
覚えてるに決まってるじゃないか、。

沢田君が出す色気に赤くなっている頬を隠しながら頷く。

満足そうに笑う声を聞きながらぎゅっと目を瞑った僕に彼は言葉を続けた。


「俺、急いでる時に鞄からテスト用紙を廊下にばら撒いたでしょう?
ダメツナ、何て言われてテストの点数の事で皆に笑われて。正直恥ずかしくて。
涙目になりながらテストを拾い集めてる俺に、偶然先輩が通りかかって。
俺を馬鹿にするやつに言ったんですよ」

覚えている。
あんなに必死になりながらテストを拾い集める彼を馬鹿にして笑っている奴等にムカついて言った言葉。

そう、確かあれは・・・



「『自分にもできない事がいっぱいあるでしょう?彼はそれを一生懸命頑張っているのに馬鹿にするのはおかしいんじゃないのかな」、』



確かにあれは酷い点数だった。それは否定しない。
それと、ダメツナ。そんなあだ名が学校中に広がっていくものだから当然僕の耳にも届く。
ダメツナというのだから何もやろうとしない人かとも思ったが、あんなに悲しそうに必死に拾い集める彼を見て自分を殴りたくなったのを覚えている。

そして、それを笑う周りの人達も。頑張っているのに、なぜ笑う?できない事が、なぜ可笑しい。
だから僕は言ったんだ。「これ以上彼を傷つけるな」と。




「先輩、その後にテストを拾ってくれて、先輩が笑って言ったんですよ。「頑張れ」って。
その笑顔が、綺麗で・・・
・・・俺、あの時からきっと、














先輩を好きになったみたいです






(その声は酷く妖しく。)

(なんだか色気を含んで囁かれたその声にもうすでに限界を超えた僕は)


(沢田君の焦った声を聞きながら、意識が闇に消えた)





2011/1.18 三春柚子











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