海堂+桃城≠乾先輩

 期末テストより3日前から、勉学に集中するために校内での部活は禁止される。その代わりに、通常の3倍の量がある宿題が出されるのが恒例となっていた。

「もーマジわかんねえよ〜いらねえよ〜」

 数学の授業で出されたの宿題を前に、桃城はガシガシとで頭を掻きむしった。

「つうか桃ちんの先輩たちみんな超頭イイんだから、教えて貰えばいいし!」

 彼の嘆きを聞いた隣の席の女子が、目を輝かせ食いついてきた。

「手塚先輩に、大石先輩に、不二先輩もいるし!いいな〜あたしも教えてもらいたいし〜うらやまし〜」

 聡明で眉目麗しい先輩方の名前をうっとりして連ねる女子に対し、桃城はげんなりした声で反論した。

「いやいやいや。こんなものもわからないのか桃城たるんどる!って、どっかの部長さんみたく、俺が怒られるし〜」
「おいコラ、真田さんをからかうんじゃねえよ」
「あっ?」

 低く唸るような声で桃城を叱責したのは、隣のクラスで同じテニス部の海堂だった。

「何しに来たんだよ、マムシ?」
「マムシって呼ぶんじゃねえ、バカ城。期末前で今日から部活禁止だけど、自主トレ用のメニューを配りに来たんだ」

 海堂は手に持っていたプリントの1枚を、桃城に手渡す。寝る前に行う筋トレとストレッチメニューが、彼らの先輩の乾の字で書かれていた。

「おーサンキュ。ところで海堂、7組も数学の宿題たくさん出たか?」
「ああ。8組と同じ先生だからな」
「海堂さ、ルート(√)ってわかるか?なんだよルートって思わねえ?ルートなんか知らなくても俺のこの先の人生のルート(道)は間違わねえな、間違わねえよ!」
「ルートの計算は、使える手段と与えられた材料を素早く正確に分析し、求められているものを構築する力をつけるための練習だから、全ての物事において役立つ、と乾先輩が言ってたぞ」
「嘘だ!ていうか、お前もしかして乾先輩に教えてもらってるのか!?ずるい!卑怯者!」
「誰が卑怯者だと、コラ!」

 そうして売り言葉に買い言葉で、桃城の宿題を海堂が手伝う事になった。
 さらに3日後の期末テストで、数学が80点以上だった場合は海堂が、以下だった場合は桃城が相手の言う事を何でも1つ聞くという約束まで交わしてしまった。

「なるほど」

 その日の夜。
 数学の勉強を教えて欲しい、と海堂に頼まれ、乾は彼の部屋にいた。

「学校にいる間は海堂が桃城を教えて、家にいる間は俺が海堂を教える。はい、この関係を式に表すと?」
「えっ!?」

 実は数学が大の苦手の海堂は、乾の問いかけだけで硬直した。

「落ち着いて、冷静になれ。いつも言ってるだろう?」
「…ッス」

 フシュ〜と深呼吸をした海堂は、自分と乾と桃城の名前をノートに書き出し、それを穴が空きそうな鋭く睨みつけ始めた。
 そんな海堂の様子を、乾は苦笑しながら見つめていた。
 実は簡単な事でも、図式に表した途端、とても難解な物に見えてしまう。だが逆を言えば、難解な図式でも、内容はとても簡単な事だと言えるのではないだろうか。

「明日から、学校でも家でも、桃城と一緒に教えてあげるよ」
「あっ!そうか!」

 閃いた海堂が、名前と名前の間に等号(=)を書き足した。やっと解けた問題に、海堂は期待に満ちた目で俺を見上げたが、すぐに顔を強張らせて、俺と桃城の間にあった等号に斜線を入れた。

「駄目ッス」
「何が?」
「アイツが先輩から教えてもらうなんて、時間の無駄。勿体ねえッスよ」

 眉間にしわを寄せ口を尖らせた海堂に、乾は思わず笑ってしまった。
 全てが数学のように、合理的に済ませられない。海堂は乾といる時間に、誰よりも付加価値を得ていた。
 それに気付く乾は、理屈じゃないと思いながら、後で海堂から教えてもらう桃城にも解るような細かい解説を入れながら、海堂にルートの計算方法を懇切丁寧に教えてあげた。



【end】

【17/100】√ルートより。
海堂と桃城の数学力を足したら、乾先輩に…追いつけないので≠です。
海堂はなんだかんだで面倒見がよくて、それに輪をかけて乾先輩は面倒見が良いと思います。



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