ありがた迷惑
「本日はお足元が悪い中、私たちの結婚披露宴にご参列いただき、本当にありがとうございました。
寛容な両親と、優しい友人たちのおかげで、私たちは今日、新しい家族になります。
思い返せば、高校生の時。
学校祭が終わった後に誰かが黒板に書いた相合い傘が始まりでした。
当時の私たちは、互いをただの同級生以上、男女の壁を越えた友情未満の、ほどほどの良い関係だったと思います。お互いを気にしすぎることもなく、かといって無視することもなく。
学校祭の劇で『ロミオとジュリエット』を恙無く演じられたことも、ある程度の信頼関係が既に成り立っていたからだと互いに自負しております。
そのため、黒板に書かれた相合傘を、私たちは恨みました。
どうしてくれたんだ、と。
互いを意識せずにいられることの方が、当時の私たちは幸せだったのです。
学校祭が終わった後、同級生だったあなたたちにからかわれ、私たちは本当に息苦しかったですし、互いに会話することも、挨拶することも、しなくなっていきました。
そのまま高校生活が終わって、別々の大学に進学して、社会人になりました。そのくらいの期間、私たちは関係の修復に時間を要したのです。
今更ですが、当時の同級生の皆様には、その時の私たちの心境を深く理解していただきたい。
私たちは社会人になった後、たまたま立ち寄った喫茶店で席が隣になり、偶然にも同じケーキとカフェオレを注文して食べたことで、急接近しました。
価値観や好きなものが似ていて、話が合うことは、高校時代から変わりませんでした。
私たちは、互いの空白の期間を埋めるように毎日会って、色んなところへ行き、色んな物を食べて、時間を忘れるほどたくさん話しました。
そうしているうちに、新しい命を授かり、家族となる決心がつきました。
過去の黒板に相合い傘を書いたのは誰か存じませんが、あなたの先見の明は正しいと今ここに証明されました。満足しましたか?
最後に、今日は私たちためにご足労いただいたことを、改め感謝いたします。本当に、ありがとうございました。」
【おわり】
**100のお題〜4.ケーキ**
(2017.12.06)即興小説トレーニングの『過去の黒板』というお題も追加して。