その病の診断名は


 生まれつき体が弱い私に、両親は涙を浮かべながら何度も謝った。

 元気な体に生んであげられなくてごめんなさい。
 学校に行かせられなくてすまない。

 大人になるまで生きられない、と言った主治医は退職。去年から別の先生に替わった。父や母よりも、私に年齢の近い先生。遠い親戚にあたるらしく、先生が医師を目指したときに父が学費の援助をしていたそう。

「君のお父様には、本当に感謝しているんだよ」

 私の胸に聴診器を当てて心音を確認した後、私が寝間着のボタンを留めているときに、そんな話をした。

 この人は父のために、私を診てくださっているのね。

 気付いてしまったときから、時々、胸が苦しくなる日が増えた。
 動悸。不整脈。微熱。
 先生がこれから診察に来ると思うと、それだけで私は体調を崩してしまう。いけない。これではまるで先生のせいみたい。先生のおかげで、私は元気でいなきゃならないのに。

「あなたも、恋の病を患ったのね」

 母は泣きついた私の頭を優しく撫でてくれた。
 でも病の治し方は教えてくれなかった。

 体調不良が続く私を心配して、先生は私の血を採血して血液検査に出した。結果は問題なし。数値はどれも正常の範囲内で、先生は首をかしげる。

「特に問題は無いようなのですが」
「先生……」
「今日も顔が赤い。頻脈かつ、時々脈が乱れる。なぜでしょうか」
「先生……ごめんなさい」

 私は先生の白衣の襟を掴んで、引き寄せる。
 冬空の下を歩いてきた先生の唇は、まだ少し冷たかった。

「お嬢様?!」

 先生は私の肩を掴んで、押した。
 この距離が、私と先生の適正値なのでしょう。

「父には言わないでください」
「それは、もちろんですが……」
「先生は、恋の病の治し方はご存知ですか?」
「いえ、自分はその方面には無知ですので」
「私と一緒に、治し方を探していただけませんか?」

 先生を見つめる私の手を、先生は、震える手で握ってくださった。



【おわり】

**100のお題〜2.数値**

(2017.12.04)即興小説トレーニングの『肌寒いキス』というお題も追加して。
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