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【お読みになる前に】
この話は空想の街という架空の街の氷涼祭というイベントを元に書かれたお話です。
空想の街をご存知ない方は、設定やイベント内容をご覧いただけると、より楽しく読めると思われます。


オハナミズキ #2


 花園の街に住む『小花三姉妹』といえば、長女の瑞木(みずき)、次女の椿木(つばき)、三女の柚木(ゆずき)にそれぞれファンクラブが出来るほど有名だった。
 まあ、20年近く前の話だけど。
 あの頃はまだ妹ふたりは幼かったから、私が変な虫から妹達を守ってあげないと!という気持ちで、中高在学中も、その後すぐに地元の建設会社へ事務員として就職した後も、保育所や小学校への送り迎えは私がしてあげていたのに……なあ。
 やだ、ちょっと泣きそうだよ、お姉ちゃん。

「ちょっとー!もう、どうしちゃったのよ椿木も柚木も?君たちの永遠のお姉ちゃん、瑞木が黄泉がえってきたんだゾッ☆」
「私も柚木も、別に……」
「うわーグサッと来るわその一言。『別に……』って、椿木が不機嫌MAXの時しか出ない言葉じゃない。あーはいはいわかりました。私はお呼びではない、と。じゃあ黄泉がえってきたばかりだけど、もう帰りますよ私は!椿木のバーカ!」

 椿木にあっかんべーをして、私は襖を勢いよく開け部屋の外へ出ようとしたけれど。そこには何故かまだ壁があり、そこへ顔から突っ込んだ。

「いったーい!」
「小花(おはな)」

 森の中で岩清水が流れるような、清らかな声。
 藍色の壁に両手をついて顔を上げると、14年前とほとんど見た目が変わらない、坊主頭で黒縁眼鏡で表情の乏しい、大好きだった人がいた。

「巌ちゃん」

 もっと、昔好きだった人に会うと、壊れてしまうくらいテンションが上がるものだと思っていたのに。
 私は借りてきた猫みたいに、急に気持ちが萎んで、大人しくなってしまった。居心地が悪く、俯いてもじもじしてしまう。

「少し外に出る」
「えっ、ちょっ」

 彼は私の肩に手を回すと、あっという間に玄関まで連れて行った。
 雪駄を履いて外へ出て、なごみ茶屋の店舗兼住居の裏にある、二階建ての倉庫へ行く背中を私は追いかける。

「ちょっ、待ってよ巌ちゃん!」
「中で話そう」

 鍵を開けて灯りを点けた倉庫の中は、様々な工具と木材が壁一面に並んでいた。物置というより、工房のように使われているらしい。

「座りなさい」

 彼は背の無い椅子を二脚持ってきて、向かい合わせになるように並べた。

「なによ。面接でも始める気?」
「面接というより、会議」
「会議?」
「今後について話し合う」
「今後って。私もう死んでるんだけど」
「そうだな」

 彼が座ってから、私も椅子に腰を下ろす。

「まず。なぜいる、ここに?」
「なぜって、氷涼祭だからじゃない。巌ちゃんもここに住んで何年か経つんだから、知ってるわよね?白鴉が渡りを始める頃、家の前に風船を着けておくと、死んだ人が黄泉がえる。そう、そのまんまよ。和水家に風船がつけられたから、死んだ私はここにいる。ドゥーユーアンダスターン?」
「そうだな。でも、違う」
「何が違うのよ?まさか!そう、か。いい、いいわ。皆まで言わないで。つまりね。風船は付けたけど、黄泉がえってほしかったのは私じゃない。そうでしょう?」
「ああ」
「ちょっとー!ちょっとチョット!少しは言い澱んだりしないかな、そこ?あたしがそれを聞いてどれだけ傷つくかわかってる巌ちゃん?」
「すまない」
「もう。仕方ないなあ。いいわよ、巌ちゃんだから許してあげるわ」

 フーッと息を吐いて、足を組み換える。
 もーなんなのよー!
 柚木に椿木に、巌ちゃんまで!
 誰か一人くらい、死んだ瑞木が黄泉がえったわーおめでとう会いたかったー!って人はいないの?私ってば、とんだ寂しい子ね。

「小花、それと」
「なによ」
「俺は椿木と」
「結婚したんでしょ。知ってるわよそれくらい。だてに14年も浮幽霊をしてないちゅうの」
「すまない」
「そこは、謝るところなのかな?」

 向かい合って座っていた巌ちゃんの、今は顔は見えず、キレイに剃られた頭しか見えない。

「顔あげてよ。あたし、巌ちゃんの顔も好きだったんだから」

 そう言っても頭を下げたままの巌ちゃんの前に、私はしゃがみこんで顔を覗きこむ。

「あのね。私が好きだったのは、私が生きていた頃の巌ちゃんなの」

 これは幽霊になって何回も、何十回も、何百回も痛感していること。時は戻らないし、過去には帰れないってことね。でも……

「ねえ、少しだけ昔の話しよっか?」

 今、巌ちゃんとなら、少しだけ過去に戻れるような気がした。

【つづく】



2015/11/29 UP


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