今夜、宝をいただきます 【今夜 アルセーヌの宝を いただきます】 泥棒をする時は、その宝の持ち主に予告状を出すのが怪盗の嗜みだと、祖父は言っていた。 上質の羊皮紙で認めたそれを封筒に入れ、蝋を垂らして刻印を押す。完璧だ。 あとは宝のある屋敷へこれを届けに行くだけ。下見も兼ねて、煙突掃除夫に変装をして、屋敷へ行った。 「どうもー暖炉と煙突の掃除はいいかがですか?」 「そうねえ。じゃあお願いしようかしら?」 「毎度ありー」 メイドと思しき体格のいい中年の女の後に付き、屋敷の中へ。 暖炉のある部屋に通されると、女は誰かに呼ばれていなくなった。暖炉の前へ行くと、煙突から落とした煤で室内が汚れないように、布を張っておく。 それから外の煙突を見に行くついでに、屋敷の内部を探索。予め入手してあった見取り図と同じだ。 宝のある部屋も、もちろん確認する。ピンを使って鍵を開ける。扉を軽く叩くと、顔に痣がある少女がうつろな目でこちらを見た。 「こんにちは、アルセーヌ嬢」 「あなたは?」 「今はただの煙突掃除夫。これを、あなたの卑劣なご両親に読ませてあげて」 鎖付きの腕輪をした、か細い手に予告状を乗せる。 わけのわからない、という少女の頭を優しく撫でて、外へ出る。 煙突掃除を済ませて屋敷を出ると、真っ黒になった顔を綺麗な布で拭いて空を見た。 祖父の生業は、これからも自分が引き継いでいく。 【end】 (2014.10.24) 即興小説トレーニングの『きちんとした略奪』というお題も追加して。 〔TOP〕 |