貴島事変 #2
ホテルのロビーで警察の到着を待つこと5分。
「警視庁捜査係一課の、有栖川(ありすがわ)ケイトです」
金髪で青い目をした、およそ刑事さんには見えない人が現れた。なんか、外観が目立ち過ぎて尾行とか下手そう。
「ごきげんよう、有栖川くん」
「オー、ロップ。またキミか」
「またとは何ですか」
「キミがいるところに、事件アリって意味さ」
「心外ですね。私はたまたま、事件現場に居合わせていただけです」
「まさかキミは、事件を呼び、引き起こすのが探偵の宿命とでもいうのかい?」
「滅相も無い。偶然の確率が、少し高いだけです」
「その引きの強さを、捜査一課でもっと役立たせるべきだったんだよキミは」
「あいにく、過去は省みないんですよね」
因幡さんと有栖川さんは、随分と親しげに会話をしていた。ここが殺人現場ではなく、ただのホテルのロビーであったなら、ドラマの撮影でもしているんじゃないかと思えるようなキレイな画だった。
「あの〜」
「はい」
「あなたが、被害者の関係者の方でしょうか?」
少しくぐもった、低い声の女性が私に声をかける。30に差し掛かりそうな、化粧が薄く顔も体ものっぺりとした感じの、第一印象が物凄く暗い人だ。
「そう、ですけど」
「あの〜私、有栖川と同じ捜査一課の、釈知恵子(しゃくちえこ)と申します。すみません」
何もされてないのに、謝られた。
警視庁って、こんなにキャラの強い人ばかりいるところなの?大丈夫?
「あの、私。明日、高校受験なんです」
「あら〜」
「だから、今日はこれから受験校の下見をして、今夜は試験の最終調整をしたいんです!」
「まあ〜あなたに関わりのある人が目の前で死んでるのに、あなたはそんなことには目もくれず自分のことだけでいっぱいいっぱいなんて、いいですね〜若さですね〜私はもうおばさんですよ。すみません」
なんか、すごくボソボソした声でグサッと刺さる言葉を言われた。この人、見た目以上に要注意人物だ。
「簡単な調書を取ったら、遥くんは解放してやってくれないですか、知恵子さん?」
有栖川さんに肩を組まれた状態で、因幡さんは腕組みをしていた手を解き、私の頭の上にポンと置いた。153cmの私と30cmくらい身長差があるとはいえ、いきなり人の頭に手を置くかなーと、ちょっと睨みあげる。
「えぇ〜因幡くんのお願いなら。仕方ないですね。じゃあ、あちらのロビーのソファーでお話を聞いたら、今日はおしまいにしましょうね?」
もじもじと、因幡さんと話す釈さん。
因幡さんと有栖川さんが元同僚?なら、釈さんも因幡さんのことはよく知っているのだろう。
「じゃあ、キミたちは向こうで。ボクたちは現場でもっとお互いを深く知ろうじゃないか。な、ロップ?」
「殺人事件に関して、とちゃんと付け加えてください。あとベタベタ私に触らないでください」
そう言って、現場に戻る探偵と警察。ただそれだけのはずなのに。なぜか別のイメージが頭にちらつく。ここがホテルだから?
「では〜私たちも行きましょう」
そして、なぜか私の頭を撫で回してる釈さん。
「釈さん」
「はい〜?」
「釈さんって、もしかして因幡さんのこと」
「やだ〜違いますよ、全然そんなんじゃありませんよ、私なんかが因幡さんの彼女になりたいだなんて、思うだけで逮捕されますよ。すみません」
にまにましながら、両手を頬にあてる釈さん。
警察が来たら、すぐに事件解決!になるとは、思っていませんでした。いなかったけど。
なんなの、このいらないフラグの乱立は?
どうしてこうなったの!?
【つづく!】
2014/2/2 UP