「幸村」
幸村が己に宛がわれた部屋で書物を読んでいると、兼続がひょっこりと顔を出した。
幸村が上杉に人質として来てからというもの、兼続は幸村の面倒をよく見てくれた。時間があると、こうして幸村の部屋に来る。
「兼続様…!」
「こら、様はいらぬと言っただろう」
「か、兼続…殿…」
兼続は側に寄ると、幸村の真横に寄った。腕に絡みつくように身体を寄せてくるので、思わずどきりと心臓が高鳴る。
いつもこうなのだ。己を男として見てはくれていないのだろうかと問いたくなる。
「どうした?」
下から覗く顔。
一つ一つの動作が胸を打つ。惚れているからとは言え、あまりにも過剰だと幸村は思った。
「あの…兼続、殿は…いつも、こう男の方に寄り添うのでしょうか?」
幸村がほんの僅かでも手を動かそうものならば、胸に手が当たってしまう。
動けずにいた。
「うん?」
意識してないだろう兼続は幸村の腕を撫でた。
思わず、身体が強張ってしまった。
「か、兼続殿は…女人なのですから…その…あまり男に寄り添って座るというのは…その…」
「どういう意味だ?」
「ですから…」
幸村は兼続の腕を掴むと、その場に倒し、組み敷いた。
「こういうことです」
兼続は一瞬の出来事に驚き、目をぱちくりさせると、上になっている幸村を見た。
「ははは、幸村は力が強いな」
「兼続殿、そんな暢気なことを言わないでください。状況を解っていらっしゃいますか?」
「うん。でもだな…」
己の手を掴んでいる手を引いた。
あまりの力の強さに幸村の身体がぐらりと揺れた。そこを突いて、幸村の肩を押す。幸村の身体は畳に押し付けられた。
形勢逆転し、幸村のが押し倒されるような形になった。
「私もその辺の女子とは違うのだよ」
くすっ、と微笑を浮かべると、手を離した。
「その様ですね…」
幸村は起き上がると、身なりを整えた。
「それにしても、良い身体をしているな、幸村は」
先程、押し倒されておきながらも、兼続は幸村に寄ると、身体を撫でた。
「ですからっ!」
「この様に男と女は違うものなのか」
つうっと兼続が幸村の鎖骨を撫でた。
「幸村の身体が見たい」
答えるより先に兼続は幸村の着物の帯に手を伸ばした。
「か、兼続殿」
「良いだろう。それとも、私のが先に見たいか?」
言うより早く、兼続は己の着物の帯を取った。
胸を押さえつけている白い晒しが目に入る。その目線に気付き、あぁと兼続は溜息を吐くように言った。
「私は男として生まれたかった」
ぽつりと兼続は言葉を漏らす。
そのあまりの切なさに、幸村は兼続の顔を見つめた。
「押さえつけても、乳房が膨らんできてしまう。いらぬのにな…こんなもの…」
晒しを取れば、たわわに実った形の良い胸が現れた。無理に押さえつけているので、赤い痕が付いている。
「幸村が羨ましいよ」
幸村の肌蹴た胸に指を這わせた。逞しい胸の筋肉を確かめるようになぞっていく。
兼続は己が女であることが嫌だった。
「兼続殿…」
かける言葉が見つからない。幸村は、ただ兼続の名を呼んだ。
「女はいつか、男に抱かれるものなのだろう?」
「そうとは決まっていないかも知れませんが…そうなるのかも知れないですね」
「幸村は、その仕方を知っているのか?」
「えぇ…まぁ…」
「顔も知らぬ男に嫁ぎ、抱かれるのは嫌だ…我侭なのかも知れないが…」
言葉を区切ると、幸村の顔を一瞥した。
「幸村は、想い人が居るのか?居ないのならば、私を抱いてはくれないか?」
「か、兼続殿!」
「男に抱かれ、初めて女は女になるらしい。…詳しくは解らぬが、知らない男に抱かれるより、私は…幸村に…」
ぽうっと兼続の頬が染まった。
疑問になりながらも、兼続の言葉を待つ。
「幸村に抱かれたい…。幸村が………好きなのだ…」
突然の告白に幸村は言葉を失った。
「すまない…私の様な女にそう言われても…困るよな」
さっと目線を逸らす。晒しに手を伸ばすと、それを再び巻こうとした。
しかし、その手を掴まれた。
「良いのですか?」
幸村も兼続と目線を合わせようとはしなかった。だが、耳まで染まっているのが解った。
「私も…兼続殿に惚れています…ですから、ずっと……」
「幸村…」
晒しを畳に落とすと、幸村の身体に抱きついた。
柔らかな胸が幸村の胸を押すので、益々顔が赤らんだ。
「幸村は…女を抱いたことはあるのか?」
「いえ、ありません」
「二人とも初めてか、ふふ」
「女子には痛いものだと聞きました…ですから、数日かけて解していくと良いらしいです」
「詳しいのだな、幸村は」
「すみません…こういうことを知るのも男の務めだと、教わりまして…」
「何だ、それは」
くすくすと兼続は笑うと、幸村を畳の上に押し倒した。
「私にも詳しく教えてくれ」
「…はい」
幸村は逆に兼続の身体を畳に寝かせた。
ゆっくりと唇を重ね合わせる。
「気持ち良いものだな」
「そうですね…」
「もう一度したい」
「はい」
ぎこちなく二人は再び唇を重ね合わせた。
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