小説2 | ナノ


  下降する螺旋の檻


「……は…ぁ……ぅ……」
 力が入らず重たくなった体はただ前にいる白龍にしなだれかかり受け止められていた。互いに果てた後、といっても俺は意識が白む中何度快楽に溺れさせられたかは定かじゃない。
 白龍が果てるまでに戯れのように何度も突き上げられ俺が快楽が過ぎて苦しそうな悲鳴を上げてもあえてそれを愉しむように白龍は性行為を続けた。もう無理だ、やめてくれ。どれほど哀願してもそれは白龍を興奮させる材料でしかなかったようで、懇願すればするほどほど白龍は俺の善い所探しては攻め立てた。
考えをまとめることもできないまま何度も俺は果てさせられてそれが快楽なのか苦しみなのかすら曖昧になるくらいの時間を過ごしていた。
 それが今ようやく終わった。
 辛うじて残っていた意識は視線だけを白龍に向けた。肩に頭預けている状態じゃ表情は見えないけれど、白龍の呼吸だけは聞こえてきた気がしてゆっくりと目を閉じた。
 途切れていく意識の中でじゃらりじゃらりと金属がこすれる音だけが鼓膜を揺らしていた。最近では聞きなれてしまった音が視界を閉じた暗闇の中でいつまでも木霊する。俺をこの部屋に繋いだ鎖の音。纏わりつくことを拒むことをせず自ら望んだ、鎖の音が夢に落ちていく間も響いていた。

 俺はどうしても白龍を引き留めたかった。それこそどんなことをしたとしてもアイツをカシムのように運命を恨ませたくなくて助けたくて。
 白龍からしたらいい迷惑だと思う。人の生き方なんてそれぞれで何を目的とするかなんて、誰かから言われて変えるようなものじゃないって俺だってわかっている。この願いは俺のエゴなんだ。白龍からしてみればその願いの発端ですら白龍自身とは何も関わり合いのないものなんだから。
 俺がもう後悔したくない、そんな気持ちに突き動かされてのことなんだから。だから再会して去っていこうとする白龍を追いかけたのは俺にとっては必然で、白龍から見れば障害以外の何物でもなかったんじゃないかって思う。そんな関係でしかなかったから俺は、白龍の手が俺に向かって伸びた時にその手を避けなかった。
例えその手が俺を害する意志で満たされていて、その悪意に身の危険を感じていたとしても、僅かでも引き留められたと喜ぶ気持ちの方が勝ってしまった。白龍の腕に絡め取られることを望んでしまった。初めて押し倒されたその瞬間でさえ行為が性欲や支配欲を満たすだけのものだとわかっていながら俺は白龍を離したくないと俺は必死に白龍に手を伸ばしていたんだ。
 その手が未だ握られていないとわかっていながら、堂々巡りの戯れを未だに続けている。部屋に繋がれ白龍に支配されて白龍が望むように何度も身体を弄ばれ苦しいほどの快楽に何度も堕とされながら、別の方法を模索することすら恐れて俺は一人になった部屋で肩を震わせている。







 あまりにも意外だったのは俺が苛立ちと共に伸ばした腕をアリババ殿が避けようとしなかったことだった。
 俺からしてみれば俺とアリババ殿が話すことはもうなかった。歩いてきた道も似ているようでいて人徳は真逆を向いていた。たまたま同じ道を歩いた瞬間があったにせよ、ぶつかることはあらかじめわかっていた。アクティアでの大聖母討伐の一件から――全く違う人間だと俺は気付いたから。
 あの人は傷つけない守ろうとする。たとえそれが祖国を取り戻すことになる戦いの中だとしても。復讐を望む自分とは正反対だ。異なる道を歩み対立する予感はその時既に感じていた。
 だからこそ――この時になって彼が俺を追いかけたことに戸惑った。彼は周りの制止の声にも耳を貸した様子はなかった。実の姉ですら俺から距離を置いていたというのに俺を追いかけて彼は手を伸ばした。その手を俺が払っても諦めずにその真っ直ぐな、煩わしい眼を俺に向けてきた。
 対立するしかない運命と、雌雄を決するならおそらくどちらか一方しか生き残れない関係。それを俺はアリババ殿に感じていた。その運命なら準じてもいいと思っていた。似た者同士の目障りな相手としか彼は俺に映ってなかったから。

 けれども彼はそうじゃなかった。
 その流れを認めようとしなかった。
 可能性を諦め切れてないその眼が嫌いだった。

 だから――俺は手を伸ばした。仲間と離れて一人行動している隙にその瞳に映っている希望を消したくて俺に向ける感情を暗い感情に塗りつぶしたくて。本気で逃れようと思えばアリババ殿はいくらとでも逃れられただろう。
 これは彼の望みだった。簡単にこの手に堕ちたのはアリババ殿が俺との対話を望んでいるからだとわかった。どんな形だとしてもどんなに傷つけられようとも対話でかつての関係が元に戻ることを望んでいるのだと。ぞくりとする興奮を俺が感じてしまったのはこの時からかもしれない。
 彼が俺を望んでいることに対してじゃない。対等だと思っていた相手が簡単に手に堕ちた瞬間、背筋を走りぬけていった興奮があった快楽に近い何かがあった。彼は俺の支配下に置かれた。もう誰の手もそう簡単に彼を助けることはできない。彼が、望んでそうなったのだから。
 彼を連れて帰ったからといって俺には彼と対話する気などなかった。
 その代わりに彼の身を暴いた犯した。肉体的に苦痛で精神的にも屈辱で支配者を明確にする術の一つでもあったから。
 それ以上の意味はなかったはずだ。
 けれども、悲鳴を聞きながらその頬を流れる涙を眺め、自身の熱で彼の身体を貫いた時何かが変わった。今までアリババ殿個人を見たことなどなかったかのように、目の前にいる人物がまるで違う人間のように感じた。混乱していたのかもしれない。
 ただ、一つだけはっきりしたことがある。

 俺は彼が『俺のモノ』だとこの時ハッキリと認識した。

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