小説2 | ナノ


  鎖と白い部屋


 天井からぶら下がっている鎖に後ろ手に縛られてこの白い部屋に放置されてどのくらい経ったんだろ? そもそも、いつここに連れてこられたのかを俺は覚えてない。手を縛る鎖の痛みに気付けばここにいた。そして、目を覚ましてから誰一人俺以外の人の姿も見ていない。
 ガチャリと音がしてその方向に顔を向ける。そんな所に扉があったのかと、白い壁が暗い口を開けてそこから一人、部屋に入ってくるやつがいた。白と黒の煌特有の衣服に身を包んだ火傷の跡がある男。すぐに誰かなんてわかった。白龍だった。
 白龍は当然俺に気付いただろう。俺に向かって歩いてきている。気になったのはその足取りと様子だ。俺がこんな風に鎖にぶら下げられた状態だってのに驚いた様子もなく、歩調も普段と同じくらいだ。こんな状況ななら驚いてかけよってきてもいいだろ? しかも、見間違いじゃなきゃ笑っているように見えた。
「白龍……?」
「アリババ殿、御待たせしてすいませんでした」
 一瞬その言葉にやっぱり白龍は助けに来てくれたんだ。と淡い希望が胸に浮かぶ。
「いつものように、ね、愉しみましょう?」
「……は?」
 白龍の手がゆっくりと頬を撫でていった。肌が粟立ち息を呑んだ。
 そのまま首筋も撫でられ内シャツの襟元が広げられた。首筋に落とされた口付けに体震えた。
「ひゃぁっ! は、白龍! お前何して……っ」
「何っていつものことでしょう?」
 鎖ががちゃがちゃと音を鳴らす。身を下がらせたいのに肩を強く捕まれて動けない。愛撫は首から胸へと落ちていく。その度に体が震えて熱を帯びていく。少なくとも白龍の愛撫に吸われ震える身体は快楽を感じ始めていた。
「はぁあっ。あ、はく、りゅっ! や……やぁっ!」
「大丈夫。すぐに何も考えられなくなりますから」
 なんで白龍がこんなことするのかわからない。その上熱を溜めた腰は揺れ始めていた。触れられない分もどかしくて辛い。
 不意に白龍が俺から手を離した。離れていく熱にもの足りなさそうな声が俺からもれた。熱くなって鈍くなった思考で白龍を見やれば、情欲に淀んだ瞳が俺を探るように見ていた。たあがってしまった自身が辛い。見られているだけなのに羞恥心を感じていっそう自身が悩ましくなった。

 それからの記憶は曖昧だった。長い時間焦らされてみっともなく白龍に触れてほしいと願った気もする。
「あ、ぅ……あ、ぁあんっ」
 後ろから抱え込まれるようにして俺は白龍自身を受け入れていた。獣のように犯されて、なのに脳髄を白く染め上げる快楽にはしたない嬌声を上げていた。
「はぅっ、あっ! も、もっとぉ!」
 白龍を受け入れて、圧迫感を感じているのに痛みはほとんど感じなかった。慣れた感覚で白龍の動きに合わせて腰が揺れる。
「あぁっ!」
 唐突に熱い固まりが外に出ていった。与えられた空白に、物足りなさに腰が揺れる。
「もっと奥がいいんでしょう?」
 囁かれた言葉に熱に浮かされたまま頷けば両足を掲げられて体が宙に浮いた。すぼまりに感じる、熱く硬い固まり。ひゅっと息を呑んだ。
「あ、ああああっ!!」
 白龍が手を下ろせば自重で俺は白龍を呑み込んでいった。留まることもできず一気に深く貫かれる。
「はぁ、あ…あ……」
 震える俺の身体など構いなしに下から突き上げられて、内の一点をすりつぶされて頭を真っ白に染める快楽を何度も与えられて喉がさけそうなほど俺は理性を手放して叫んでいた。






 気付けば真っ暗な所に一人立っていた。どこを見回しても真っ暗だった。けれども、一つだけ小さな光が見えた。
 近づいてみればそれは白い扉で、何でこんな所に? と思いつつも俺はドアノブに手をかけた。
――意味なんてないだろう。だってこれは夢なんだから。
 それにしてもこれだけ深い暗闇の中で、一つだけ小さく光っているのだから、この扉の先には希望でも詰まっているのかもしれない。そんなありえないことを考えながらドアノブを回せば、鍵の掛かっていない扉はすんなりと開いた。
 扉の先は、これまた病的なほどに白い部屋だった。壁も床も天井もすべてが真っ白い。
 その部屋の真ん中には人が一人立っていた。いや、立たされていると言った方が正しいかもしれない。白い部屋の中で、唯一の異色。白い天井の中心から垂れ下がっている黒い鎖はその人の所に垂れ下がっていた。少し近づけば、見たことのあるバルバッドの衣装がよくわかる。見たことのある金髪が揺れて、琥珀の瞳が俺を捕らえて瞬いた。
 両手はひとまとめにされて、手首から肘にかけて黒い鎖が絡みついている。まるで、俺がさっきまでいた所の暗闇が、この白い部屋に侵入しているようだった。侵入して、この部屋にいたアリババ殿を絡め取っている。
「アリババ殿、どうしてこんな所に?」
「わかんねぇ」
 交わした言葉はそこそこに、俺達は鎖をどうにか外そうと試みた。けれども、鎖は固く締まっていてびくともしない。鎖を断ち切ろうにも俺達の得物はどこにもなく、見るからに何もないこの部屋にも当てになりそうなものはなかった。もしかしたら、この部屋の外の、あの何も見えない暗闇のどこかにあるのかもしれない。
 けれども、またあの暗闇に一人で戻ることを考えたら、ぞっと胸の奥が冷えた。一度出たら戻ってこれないかもしれない。そんな強迫観念に縛られて俺の脚は動かなかった。
――どうせ、夢だ。
 途中であきらめて、ポツリポツリと俺とアリババ殿は話し始めた。夢が覚めるまでの辛抱だとか、そんな気休めを口にしながら。




 そんな奇妙な夢は一日だけでは終わらなかった。
 それも毎晩のように続いた。最初は話をしているだけだった。
「また会いましたね。もしかして、あなたもこの夢を見ているんですか?」
「さあな、わからない」
 夢の中のアリババ殿刃俺と同じように前の夢の記憶も持ち合わせているようだった。ただ、俺は現実でもこの夢のことを覚えている。曖昧な返事をしたアリババ殿が現実のアリババ殿も俺と同じ夢を見ていると言う確証は得られなかった。彼はわからない、の一点張りだったから。
 何度も会話を重ねていく。毎晩のように、この真っ白な部屋で、黒い鎖に繋がれたアリババ殿と。
 それが、どんなはずみだったのかは覚えていない。

 俺はアリババ殿にキスをした。

 この夢が淫らな、しかも、俺の支配欲を満たす夢に変わったのは、その時だろう。
 ゆっくりとキスを交わして、俺は夢の中で初めてアリババ殿を犯した。驚いて泣いて嫌がった彼を、その言葉に耳を傾けず、力で無理矢理身体を暴いた。蓮杖があったのかは定かじゃない。けれども、支配欲があったのは確かだ。現実では俺は自分よりアリババ殿の方が武術の技量にしても、心の広さにしても上だと認めて尊敬していた。羨望を抱いていた。そこに嫉妬の感情がないかといわれれば嘘だろう。夢の中だからこそ、普段ずっと押さえこんできた感情に歯止めがかからなかった。
「あなただけは明るい場所にいて、俺はいつも暗闇で目が覚めるのにっ」
 俺の夢なのだから、夢の中のアリババ殿にそんなことを行っても、意味のないことくらいわかっていた。夢は所詮願望だ。アリババ殿が黒い鎖に絡め取られ動けなくなっていることだって、アリババ殿に影を落としたい俺の願望の表れかもしれない。

 その奇妙で、編に現実味を伴う夢はその後も続いた。
 不思議なことにアリババ殿も繰り返し抱けば、感じるようになってきたみたいだ。最初は貫かれる痛みに悲鳴を上げていたのに、数日経てば善がって甘い声を漏らすようになっていった。後ろの締め付けも、キツイばかりだったのが、少し緩くちょうど良い締まり具合になっていく。女ほどとは言わないが、それでもこちらも愉しませるように喘いで締めつけるようになっていった。
 この頃になると、夢の中のアリババ殿と現実のアリババ殿が繋がっていないとハッキリ感じるようになった。視線が変わった。扉を開くと、ビクリと肩を震わせ、怯えた視線を夢の中のアリババ殿は俺に向けるようになっていたから。現実では全くそんなそぶりを見せていないのだから、繋がっていないのだろう。
「あっ! あぁあ! …はく、りゅ…やぁっ! やぁあア―――ッ!!!」
「どうしてあなたはここにいないのでしょうね」
 熱をあげ快楽に浸る淫らな身体。これが現実のアリババ殿だったら良いのに。





 そう、心から願った。

prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -