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  I thought you would change.@


 この薄暗い場所に連れてこられ、抵抗も空しく、俺は自分の首紐で寝台に繋がれた。うつ伏せに押さえられ、下穿きをはぎとられ、この寝台に繋がれてからどれくらいの時間が経ったかなんて俺にはわからなかった。

「……っぁ。…く……」

 何度目かわからない内側を抉る剛直に、上がりそうになる声をシーツを俺は噛んで耐え忍んだ。時間をかけて慣らされた奥の窄まりは裂けることなく、ずっと熱を絶えることなく咥えこまされ続けていた。熱が吐き出されて中のモノが萎えれば引き抜かれ、間をおかず次の剛直が穿つ。裂けるようすがみれないとわかってからは、俺を犯している連中は言葉も漏らさず遠慮なしに俺の内側を抉った。ひきりなしに与えられる激痛と息苦しさ、内臓を押し上げられる吐き気に涙が勝手に溢れてシーツを濡らしていた。

 うつ伏せにさせられている為俺を犯しているやつの顔は見えない。
 どうしてこんなことを、と問いかけても俺を犯す連中は何も答えなかった。
 嫌だ、と言っても、やめろ、と言っても、繰り返される行為は止まらなかった。
 今、口を開こうものなら、意味のない言葉しか俺は多分紡げない。

 どんな悪夢だろうと終わりは来る。ただそれまで耐え忍ぶだけだと、シーツを強くかみしめた。

 不意に俺の耳に聞こえてきた硬質な靴音は、冷たく響いているようだった。据えた匂いと熱のこもった息使いしか聞こえないこの部屋に、不釣り合いなほど明瞭な音だった。
 ずるりと、俺の内を圧迫していたものが不快な感触と共に抜き去られた。体を上から押さえていた手も離れていく。

――なんだ?

 ゆっくりと少しだけ視線を上げた。靴音が響いてきた方を涙で滲んだ視界の中、来訪者を探す。
 俺が薄暗い中でその来訪者を見出す前に、先に来訪者が口を開いた。

「気分はいかがですか? アリババ殿」

 息を呑んだ。その声と俺に対する話し方は、よく知ったものだったから。

「はく、りゅう……?」
「痛かったですよね。苦しかったですよね。でも、もう大丈夫ですから」

 その言葉だけだったなら、俺は白龍が俺を助けに来てくれたんだと思ったかもしれない。
 白龍はしゃがみ俺の視線に顔を合わせてきた。ようやく姿を認めた白龍はこの場に不釣り合いなほど柔らかな笑顔を浮かべていた。それが俺を安心させるための笑みだと、思えたなら良かったのかもしれない。でも、俺が感じたのは背筋を走る嫌な予感。得体のしれないものを見るような恐怖だった。 
 考えてみればどこかおかしい。この部屋にいた連中を非難することも目の前の白龍はしていない。
 俺を慰めるように頭を撫でているけれど、手を縛っている縄を解こうとしない。
 そもそも、こいつは最初になんて言ったんだっけ? この場に白龍が現れたことに驚き過ぎて、俺は完全に失念していた。

「助けに、きてくれたのか?」

 疑問を押し殺して、絞り出して尋ねて――、返ってきたのは無言だ。答えを返さず、白龍は笑顔のまま俺の頭を優しく撫でていた。心臓がどくどくと音を立てている。

「白龍? 何か答え――」
「いいえ。と言ったらアリババ殿はどうしますか?」

 ようやく返ってきた言葉に思考が止まる。

「あなたが置かれている状況は全て俺が用意したものですよ。見知らぬ男共にあなたを犯すように命じたのも俺です。先程あなたに大丈夫と言ったのは、痛みや苦しみからは解放して差し上げるという意味で、ここから救い出すという意味ではないんですよ」
「なに、を言ってるんだ? 本気、じゃないよな……?」

 茫然とその顔を見返して、変わらない笑みに背筋が寒くなった。体が震えているのは犯された痛みが引いていないだけじゃない。
 ゆっくりと、俺を撫でていた白龍の手が名残惜しげに離れていく。

「そう言えばまだ、最初の問いに答えられていませんね。気分はいかがですか?」
「……っ。さいっあく、だ!」

 手首の縛り。もしくは僅かに体を動かすだけで下から全身に走る痛み。
 それがなければ、即座に俺はこいつを殴っていただろう。ぎしりと、俺を縛っている首紐が悲鳴を上げた。

「それは良かった。愉しみはこれからですよ。善い気分にして差し上げますから」

 白龍が俺から離れて、部屋の片隅に一つだけあった椅子に腰をかける。それが合図だった。
 静かにしていた男達が後ろの方で動く気配がした。

 先程と同じように伸ばされた手に寝台に押し付けられる。違ったのは男達の姿を認める前に目元に布を巻きつけられたこと、そしてうつ伏せから仰向けに姿勢を変えられたことだった。

「白龍っ!! なんでこんなっ!!! っ!!」

 下穿きだけでなく上着もはぎとられようとしているのがわかる。足を広げられ、触れられてこなかった自身に手が伸びたことで、俺は言葉をきらざる負えなかった。
 白龍が俺をここに連れてくるようにした?
 犯すように命じたって、白龍が?
 なんで。どうして。意味が分からない。白龍がそんなことをする意味がどこにあるって言うんだよ。敵国の人間とか関係なく、俺は友だと思っていたのに――。

「言ったでしょう? 善い気分にして差し上げると」

 問いの意味をわかっていて、あえて答えようとしていないのが伝わってくる。
 自身や胸の飾りに伸びた愛撫に体が跳ねた。思考を組み立てようとしているのに、熱に片っ端から解かされていくようだった。体が熱を帯びていく間も、疑問はぐるぐると俺の中でまわっていた。





――白龍。なんでだよ、なんでこんな。





 俺がアリババ殿に抱いていた羨望が、憎しみと嫉妬に変わり果てたのはいつからだろうか。

 アクティアの罪人の処刑で対立した時だろうか。
 初めて好意を寄せた女性に振られた時だろうか。
 それとも、特異な存在である第四のマギに協力を拒まれた時だろうか。

 あるいは、煌帝国に着いた後、姉に助力を拒まれた時か。
 力を出し切ったにもかかわらず母親の命を奪えずに終わった時か。

 もしくは、その全てか。



 部下が命令通りアリババ殿を捕らえたと報告が上がってきた。
 殺すことは容易かった。何の前触れもなく命を奪うことは、日常の中にその刃を潜ませてしまえば容易い。
 けれども、ただ殺すのでは俺は満たされない。彼がこの世界から消えた所で、やり残した後悔が残るのはわかっていた。もっとも、その後悔は彼を手にかけたことに対してではなく、彼を綺麗なままで終わらせてしまうことの後悔に他ならないと俺は思っていた。



――だって、不公平だ。

 国を失った王族としては、俺もアリババ殿も立場は大きく変わらない。
 亡くなったムスタシム王国のドゥニヤ王女も同じだ。俺はアルサーメンに狂わされる前の煌帝国を取り戻したい。ドゥニヤ王女もマグノシュタットに奪われた国の再建を望み力を欲した。その過程で、俺は父と兄上達を殺したアルサーメンと自分の母親を、ドゥニヤ王女は国を転覆させ従者を殺したマグノシュタットの魔導士達を憎み恨んでいる。
 けれども、アリババ殿だけは国を失い、民を傷つけられたにもかかわらず煌帝国を憎まないと言った。煌の王族である俺のことも憎まないと――。

 俺とは対照的だった。母親とアルサーメンに加担した人間を全て憎み消し去りたいと願っている俺とは。誰も恨まないという彼は立場が似通っているはずなのに何もかも正反対だった。

――俺にとって彼は眩し過ぎる。

 その心が他者に対してあまりに優し過ぎて美しく見えて――、俺がどれだけ憎しみに囚われているかを気づかされる。心が醜く歪んでいるのだと思い知らされてしまう。そして、わかってしまう。モルジアナ殿もアラジン殿も決して俺を選ばない。彼を選ぶのだと――。俺が欲しているものをアリババ殿は全て手にいれている。
 だから、彼は黒く塗りつぶしてしまわないといけない。苦境に立たせ、蹂躙して、おのれの無力さを噛みしめさせて、運命を呪わせたい。俺と同じように。

――そうすれば、きっと。

 彼らはアリババ殿を選ばないだろう。アリババ殿も俺と同じ所まで堕ちてくれる。国を失った王族が至る場所だと安心できるようになる。
 そうすれば、きっと俺はひとりじゃなくなるんでしょう。

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