小説 | ナノ


  手錠とアイマスクと首輪


 何がきっかけだったかを上げるならばやっぱり宴会のときの彼がエロかったからだろう。
 俺だけでなくジャーファルまでもが酔いつぶれ、後半になるにつれて混沌としていたあの宴会だ。珍しく記憶がちゃんとあったから覚えている。酔っ払ったアリババ君がへらへらと笑いながら俺の傍に居たときだ。なぜか横から見た彼のうなじや鎖骨がやけに色っぽく見えたんだ。気付けばちょっとだけ抱き寄せていたくらいに。特にそのときの記憶がいけない。
「…………あっ」
 彼がこぼした吐息がひどく熱く甘かった。俺としたことがうっかり酒の席だということも忘れて見入って押し倒してしまいそうになるくらいに。
 幸いなことにそれはその後にすぐ来たアラジンとモルジアナによって俺は自制心を取り戻すことができた。良かったよくぞ迎えに来てくれた。と内心思ったものだ。
 もし、あの場でアリババ君を押し倒して居ようものならアラジンとモルジアナだけでなく七人将にも冷たい目で見られることだった。
 ただ、一つその後問題が見事に残った。
 あの日の晩のアリババ君の顔が忘れられないんだ。彼は男の俺から見てもかわいい顔をしているし、成長途中の身体のラインはほっそりとしていて艶かしい。服も良くない。レームで手に入れたという脇袖が大きく開いているあの服装はなんだ、けしからんっ!ちらりと見える脇下が見えて俺がどきっとしちゃうじゃないか。一回くらい味見しても……と何度その想いを振り払おうと俺が考えてしまうのはどちらかというと仕方がないものだ。




 アラジンとモルジアナはこの日は別室に泊まるように手配してある。
 変に勘ぐられないように、ちゃんとした理由はつけてある。ジャーファルにも今後のことをアリババ君と二人で話したいからと、理由は伝えていて実際に俺達はさっきまで二人で話をしていた。今後の煌帝国との方策について話をした、そこにはもちろん下心などないし真剣に話をしていた。……ちょっとだけ飲み物に薬は盛らせて貰ったけれど。
 アリババ君とその後別れてちょうど半刻ほど経った。薬がそろそろしっかりと効いてきてる頃だろう。いざとなったら金属器の力を使ってなかったことにしてしまえばいい、などという下卑た考えも脳裏でひらめくのだから問題だ。
――だからといって最初からこれはハードだったかなぁ。
 手元にあるのは手錠とアイマスクと、首輪だ。気付けばすでに盛った薬も含めて用意していた。どうやら俺はそうとうにアリババ君を抱いてみたかったらしい。その上に正体を知られてもまずいということも理解している。順調にアリババ君を誘い篭絡する方法も考えてはいたんだ。しかし、なにぶんゆっくりと口説いている時間は紅炎のせいでなくなった。あの野郎、嫌がらせするなら政治だけにしておけよ。
 音を立てないようにゆっくりと鍵を開け扉を開いて部屋に入る。薬を盛っているとはいえ最新の注意をはらうにこしたことはない。もちろん扉はしっかりと閉めた。内側から鍵もかけた。
――お、おお……。
 寝台の上では静かに眠っているアリババ君が居た。すやすやとあどけない寝顔で、その淫らにもみえる寝巻きに着替えていて。
 そう。この寝巻きだ。アリババ君は礼儀上あまり寝巻き姿で俺に会うことは少ない。アラジンやモルジアナならば何度も見せているというのに、だ。もちろん立場が違うのだから仕方がないだろう。
――でも俺だってゆっくりと近くで嘗め回すように見てみたかったんだ!
 服のすそからそっと手を忍ばせても起きないことを確認すると、俺はすぐに作業にとりかかった。まず彼の目にアイマスクをかける。それから両手に手錠をかける。紫のチョーカーを首に嵌める。
 自分でも驚くくらいに迅速で正確な作業だった。普段の仕事もこれくらい速やかにできていればジャーファルにとやかく言われることもないだろう。
 紫のチョーカーの真ん中には琥珀の宝石を埋め込んでいた。彼の瞳と同じ色を。何故か自分の髪の色と同じチョーカーを彼の首に嵌めただけで変な興奮があるものだから、俺の腰が早くも重くなってしまったのは仕方がないだろう。
「今日だけは君は俺のものだよ、アリババ君」
 まだ目覚めていない今だからこそ、俺はそっと彼にささやいた。




 香油を使って丹念にほぐしたそこに待ち望んだ熱をぐっと押し当てる。ゆっくりとほぐしていくらか広がったといってもそこが俺を受け入れるにはまだまだ狭いことはわかっていた。
――でも、もうっ!我慢できない……っ!!
 アリババ君はまだ起きてはいない。さっきから愛撫に僅かな反応を返すだけで、足の付け根をほぐし始めていても不明瞭な喘ぎを洩らすだけだった。けれども、これからは黙ってなんかいられないだろう。
「……ぁっ」
 ぐっと熱くその先端を彼の身に埋める。それと同時に持ち上げていた膝裏をぐっと引き寄せる。
「………あっ、あああああああああっ!!!」
 酷く大きな声が部屋に響いた。今彼の部屋は特別に壁が厚い部屋を用意しているからきっと声が漏れていることはないが、その声にぐっとアリババ君に埋まった自身が膨張する。ああ、そうだ。彼の声が聞きたかった。もっと聞きたい。彼の喘ぎを、彼の嬌声を。
――最初は痛いだろうな……。大丈夫、すぐに気持ち善くしてあげよう……。
「……へ……あ、あぐっ!? ひぁっ! あっ!!」
 本当ならなだめながら抱いてあげたい。でも、言葉を発すればすぐに誰がこんなことをしているかなんてばれてしまうだろう。
 代わりに指で丹念にほぐしていたときに反応が少しばかり過敏だった場所に当たるように内側をえぐる。
「……ひゃぁああっ!? や、やぁああっ!!」
 痛みに痙攣していた身体がびくりとはねたのを見て、決して感じない身体ではないことにほっとする。少なくとも俺は痛みだけではなく、快楽を彼に教え込むことができるのだから。
 それからは夢中だった。
 善い所を突いて、その度に跳ねる身体と甘い嬌声をいとおしく感じながら、全身で彼をむさぼっていた。胸にも自身にも愛撫を続けながら、彼自身が感じ奥を突いたときにはじけた時は嬉しかった。びくりびくりと内部が収縮し、感じている間にも動き続ければ彼は乱れに乱れた。俺も彼の中に注いで、意識を失っても続ければ彼が目を覚まして、また嬌声を上げて、なんて可愛らしいんだろうか。
 最後のほうなんか彼も快楽で腰を振り始めているんだ。粘膜は柔らかく次第に俺に馴染んでいる様な感じすらした。こんなに気持ちイイのも久しぶりだ。彼の身体はどこらかしこも甘くて仕方がない。
 何度目かの精を同時に吐き出して、彼がぐったりと動かなくなる。まだまだ貪り足りないけれど、これ以上はもう彼も限界だろう。……とっくに限界が来ていたような気はするけれど。
――ああ、それにしてもマズイ。
 ゆっくりと自身を抜き、アイマスクを外せば固く閉じられた涙に濡れた瞼がそこにあった。その涙をちろりと舐めれば、口にしょっぱい味が広がっていく。それなのに、しょっぱさの中に甘みを感じているような錯覚。
「アリババ君……君は俺のものだよ」
 ぐっと彼の動かなくなった身体を抱き寄せる。熱い身体、熱い呼吸。それを身近に感じるだけで、俺の身体はまだまだ熱くなる。それはますます自分が彼に陶酔してしまいそうな予感だった。

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