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12/05(Sat):【ヤンデレ龍アリ】12

「あなたにも、身を守るモノがこれから必要です」
白龍が言葉を落として少しだけアリババは安心した。少なくとも宝剣がアリババを突き放すためのモノではないとわかったからだ。
「それと」
ことりと音を立てて宝剣の隣に置かれたのは、黒を基調としたチョーカーだ。
「まだ痛々しい痕が貴方の首に残っているのです。せめて隠せればと、用意しました」
「……ありがとう」
白龍が自分のために用意してくれた。それだけでアリババは嬉しいと感じていた。それにこの贈り物をしてくれたことがアリババにとって、白龍の側に自分が居ることを許してくれる。望んでくれている。そう思えて嬉しかった。
そろりと白龍がチョーカーを手にとってみる。自分が付けている朱色の首紐がどうしても邪魔だった。お気に入りの、トレードマークでもある首紐をアリババは少しだけ迷った後に外した。
そして、代わりにその手にしたチョーカーを自分の首に合わせた。カチリ、と留め具が音を立てる。
「……どう、かな? 似合っているか?」
傷を覆い隠す黒いチョーカー。上質な黒地も、大粒の青玉の宝石も、アリババの白い肌にはよく映えている。
「ええ、とてもお似合いです」
白龍は微笑んだ。それはとても満足そうに。




自分達の過ちはわかっていたはずだった。
大切な人を傷つけた。その心も壊してしまうほどに。
それなのに、どこかで期待していた。まだ自分達にも何かできるはずだって。この前だって、そうやって行動して傷つけたのにその事すら忘れて。



遠くから目にした光景はとても信じがたいものだった。いや違う。ビルギットはその光景を信じたくなかった。
(どうして)
大切な人は笑っていた。それこそ心から幸せそうに。
だってその笑顔をビルギットは見慣れていたから。
その笑顔は以前は自分達に向けられていたものだったから。
それが全て、今は違う人に向けられている。
そして、おそらく――もうその笑顔は以前と同じように自分達には向けられないのだと、それだけはわかっていた。
小さく奥歯が音を立てた。
(間違っている……こんなの間違っている)
どうして奪われないといけないんだろう。
救われた。だから、その分に当たるだけの恩を返せたらと願った。あの人の力になりたいと願った。その為に行動して、私達は何かを間違えたんだろうか。
そうじゃないと、どこかで間違えたんじゃないと、釣り合わない。自分達の行動に過ちが何もなくて、それでも奪われたなんて。ただ、一つ、力不足だったという、その点を除いて、何も間違っていないのだとしたらこの結果はあまりにも惨めだった。ビルギットは胸が苦しかった。あまりにも奪われたモノが大きすぎて、このまま諦めると言うことがもう選択できないほどに。
立ち止まっていると名前を呼ばれてビルギットは顔を上げた。その時には表面には笑みを浮かべ、侍女の先輩の元へと駆け寄っていく。侍女として宮廷内に潜り込んで、機会と様子を伺う日々をビルギットは送っていた。その度に突き付けられるのは、どうしようもない現状だった。あれからアリババが、少なくとも幸せを感じつつ生活をしている、そう思える様相を突き付けられつつビルギットは宮廷で仕事をしている。まだアリババには会っていない。もし、会うとしたらそれはアリババを連れ出す時だ。今のアリババがビルギットに会えば、どうゆう反応をするのかわからないから――。
ただ一つ決めていることは、たとえどんな反応をしたとしても、ビルギットはここからアリババを連れ出して外に出ること。最悪の場合は、アリババを気絶させても連れ出す計画だ。その機会をうかがってビルギットは宮殿内で仕事をして隙がある時間を探っている。
オルバ達はいざという時に備えて宮殿の外で移動手段を確保して、その時を待っている。宮廷内の動きをおおよそ把握できたらすぐにでも行動に移す予定だった。
(間違っている。こんなの間違っている)
アリババが本当にいるべきは自分達の近くで、アリババが笑顔を向けてくれるのは自分達で。それが正しいはずだった。そうだったはずだった。だから、戻さないと。どうしても、どうしても、取り戻さないと。


たとえその為の行動が、今のアリババの笑顔を奪ってしまうことになっても――。

そう、覚悟していた。




はずだった。

アリババが最初にビルギットに向けた笑顔は宮廷の侍女に向ける笑顔と変わらないものだった。日が傾きかけた頃、新しい衣服を部屋に運んできた侍女。
忍び込むために黒く染められた髪だったからアリババはすぐには気付かなかった。だから、ゆっくりと顔を上げて、そして呼んだ。
「アリババさん。――お久しぶりです」
侍女では決して口にしない口調で。
一瞬目を瞬かせたアリババが薄暗くなった部屋で首をかしげる。
「えっと……どこかで会いましたっけ?」
「髪を黒く染めたから、わからないかもしれませんね。私です。ビルギットです」
貴方を助けに来ました。
そう続ける前に、ビルギットが自分の名前を口にした瞬間だった。アリババの表情から笑顔が消え、色を失い青ざめていた。その様子にすぐビルギットは気付いた。その、アリババの瞳に即座に映った、恐怖の色に。
「あ、アリババさん……?」
「……ヒッ!」
一歩進んだだけで、アリババは過剰に反応していた。その体は一見してすぐにわかるほど震え始めていた。
脳裏には今までのオルバ達の蛮行が駆け巡っているのだろうか。その誤解だけでも解かないと、とビルギットは頭を巡らせた。
「わ、私は大丈夫です。私は貴方を助けに来たんですっ。今なら警備は手薄です。ここから逃げることができるんです。だから、どうか私を信じて付いてきて下さい」
声を荒げそうになるのを抑えながら、ビルギット安心させようと口元に笑みを浮かべてアリババに手を差し伸べた。
皮肉にも、アリババにとってはその姿にオルバが重なって見えていて、ビルギットの言葉はもはやアリババには届いていなかった。
「……アリババさん?」
アリババががくりと膝を折って、ビルギットに向かって頭を下げていた。どうして、そんなことをするのか、わからずに固まっているビルギットの耳に小さく震えるアリババの声が聞こえた。
「……くれ……もう、許してくれ………っ」
聞こえてきた懺悔の声にビルギットは色を無くした。アリババは許しを請うて、自分に頭を下げている。その事実をすぐに受け入れることができずに茫然とビルギットはその場に立ちつくした。嗚咽交じりに謝り続けるアリババを前にして。


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