バレンタイン 1


※ご注意
このお話に使用後の七紙奈々子さんは出てきません。素顔の七紙奈々子さん、つまり「八神睦美さん」がメインのお話です。よって本編よりもかなり逆ハーです。





バレンタインデー。この世間一般では甘美に響く言葉がなぜ私にはこんなにも面倒に感じられるのだろう。やっぱり原因はアレだろう、アレしかないのは分かっていた。

2月12日、バレンタインデー前々日。

相変わらず総務を右往左往するだけの小松田さんを筆頭に、一年が過ぎようとゆうのに未だに成長途中の一年生、福富くん、山村くん、下坂部くん達がモゾモゾと続き、その様子を目を細めながら優しく見守る食満係長がいて、一人あくせく働いている富松さんがバタバタと移動する。
全くこの中で義理以上のチョコを渡したくなるのはいつも一所懸命な富松さんだけだ。あ、お世話になりっぱなしの事務のオバちゃんには『ありがとうチョコ』を渡さないとね。私は周囲の様子を観察しながら、小松田さんがする筈だった伝票処理を黙々と続けていた。

総務課は昨年から課単位でまとめての義理チョコだった。女性職員有志が適当な金額を出し合って一箱渡し、ホワイトデーも男性陣はまとめてお茶菓子を用意するシステムになっていた。個々に考えなくていいから楽でいいし、その分本命に専念出来るという訳だ。

「楽でいいですねー全社そうならないかなあ…」
ミルクのど飴をくれたオバちゃんに私はぼやいた。
「違うのよ、奈々子ちゃん。こうなったのはね」

オバちゃんの話によると、毎年誰よりも数多くのチョコを貰う立花先輩が男性陣のイヤミに閉口し、せめて総務部内だけでもとこの方式にしたらしかった。
そっかあ、先輩格好イイもんね、ある意味そこら辺の男の人より男前だと思う。
「だから去年は男性社員まとめて一箱、立花さんに一箱だったのよ」
大きさは同じくらいだったけど、立花さんの方が高そうだったわね、と宙を見つめ懐かしそうに話した。そっか、立花先輩今は別室勤務で総務部には出社しないもんね。
「一応、吉野部長も小さいの一個貰ってたわね」
七紙さん、後でお金集めてユキちゃんかトモミちゃんと一緒に買いに行ってきてくれる、と言われてしまった。うひ、面倒くさっ。
「いっそ、ヂロルチョコのアソートをネットで大人買いして掴み取りにしたらどうですかー」
なんて提案したらオバちゃんやそこに居た女子一同にウケてた。でもオバちゃんが一言。
「奈々子ちゃん。それじゃダメよー、福富君が全部持ってっちゃうわ」
そっか、思わぬ落とし穴があったか。じゃ、まとめて一箱は無理かも。
「いいわ、個別だと面倒だから福富君はスタンプ押して許可制にするから」
えっ、スタンプ方式…って印鑑のこと、かな?
誰もオバちゃんに逆らえないからオバちゃんがこう決めたなら従わざる得ないんだろうけど。
キリのよい所まで書類を処理すると、私は総務女子のリストを作り集金に回ろうと席を立った。
「お金集めたらユキちゃんかトモミちゃんに渡して、明日の就業後にでも八神さんと買いに行って貰うよう伝えといてくれる?」
オバちゃんは私に向かってウインクしてみせた。いつもながら事務のオバちゃんの指示って完璧だと思う。さすがに私も七紙さんの姿で駅前のデパ地下へは行きたくないもんね。私はオバちゃんに向かって返事の代わりに笑みを返すと立ち上がった。

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