鍋でカオス 1


※ご注意
このお話に使用後の七紙奈々子さんは出てきません。素顔の七紙奈々子さん、つまり「八神睦美さん」がメインのお話です。よって本編よりもかなり逆ハーです。セクハラ超ご注意







何故こんなことになったのか、なんて事態にはもう慣れっこになってきていた。だがこれは流石に想定外だった。

私は現在、立花先輩の家で開かれている鍋パーティーの真っ最中である。まだ鍋物は始まっていないけど。何度これが女の子だけの集まりならよかったのにと思ったことだろう。今日この場にいる女子は立花先輩と私の二人だけだった。なのに男は立花先輩の同期とそして…。

台所にいる私は食器や空缶を下げる振りをして、半ば逃げるようにこちらへ避難してきたのだった。だってさ、皆最初からすっごく飲むんだもん。
「この時期ロンリーな連中を集めてみたぞ」なんて先輩は言ってたけど、それはたぶん違う。立花先輩は他所でのアポイントが重複し過ぎて首が回らなくなくなったから、自らの家を友人に提供する形で逃げたんだと思う。『悪いな、予定が入っていたのをすっかり忘れていたのだ』みたいな感じで相手に断りを入れて。そこで先輩は手足となる人材を確保するべく、プロジェクトの後輩に総当りで連絡を入れ、偶々予定のなかった私が貧乏くじを引いたという訳だった。

「マジ?!私だけですか?!」とヒキまくったから「その証拠だ」と先輩からメールを見せられた。喜八ちゃんのメールはそのまんま『その日はでーと(ハート)でーす』だったし、藤内美ちゃんは『家族で過ごすので抜けられません』だったし、兵ちゃんは『友達のライブがあるので、すみません』で、伝七ちゃんは『先約があるので、ごめんなさい』だった。この真冬の連休の最中、予定がなかったの私だけかよ。強いていうなら少し前に尾浜さんから『奈々子ちゃん、連絡事項があるからその日は開けといて』とか何とかメールが来てたけど、休日に会う必要もないし後で返事しようと思ってたら、そのまま忘れてしまったことくらいか。今となっては尾浜さんの約束をOKしときゃ良かったかもと悔やむけど…それも微妙な選択だしねとその考えを打ち消した。

それにしても何なんだ、この面子って思う。経理の潮江課長代理に庶務の食満係長、そして立花先輩と同じ学校だったという善法寺先生、そこに鉢屋さんと何故か尾浜さんまでいる。このイケてるのかイケてないのか、モテるのかモテないのかよく分からない取り合わせで鍋。まあ立花先輩はモテ過ぎた結果だけど。

この中で私が七紙奈々子だと知らないのは潮江課長代理と食満係長だけだった。もっとも食満係長は薄々感づいているかもしれない。とはいえ休日にまであの化粧をさせられるのはもう勘弁して欲しかった。だから今日ごく普通のメークでいる私は、仕方なく立花先輩の従姉妹で派遣の「八神睦美さん」なのだ。素面で過ごすのは楽だけど、逆に何もつけないで会社の人に会うのは何だか不思議な気持ちになった。というか潮江代理さえいなければ私は七紙奈々子になれて、もっと楽だったのにと潮江代理は悪くないのに彼の存在が恨めしく見えてしまった。

「奈々子ちゃん、どうしたの?」
「えっ、いや…向こうは暑いから、こちらへ避難を…」
リビングからこちらへ脱出してきた私に目敏く気付いた尾浜さんがこちらへやってきた。少し酔っているのか血色の良い尾浜さんは、いつもに増してにこやかだった。
でも私の背後にべったりくっついて立たないで下さい。その上、何だか下半身を押し付けられてるような気がするんですが…、これって立派なセクハラですよ。私はシンクの前で洗い物してるから逃げられないんです。
「ね、尾浜さん、酔ってるでしょ?行動がオヤジですよ!」
「えー、本当に酔ってたらもっと凄いことしてるよー」とケラケラ笑った。
いやもう充分酔ってますよ、それ。だって前に居酒屋で会った時の計算ずくな尾浜さんとは一味も二味も違うし。あの時の尾浜さんはうっかりすると流されてしまいそうなほどだったけど、今日の尾浜さんだったら私は絶対に付いて行かない自信がある。

「会おうってメール送ったのにさ、奈々子ちゃん無視したじゃん」
「だって折角の休日に会うことないじゃないですか」
「たまには会社に関係なく会うのもいいでしょ?」
「それじゃデートになっちゃいますから」
「奈々子ちゃんさえ良よければ、俺は構わないけど?」
「私は構うんです!」

ちょっ、何度も本名呼ばないで下さい。今は八神睦美ですよ、と尾浜さんをたしなめる。すると尾浜さんは急に鋭い眼差しに戻ると「誰も聞いちゃいないよ。それにここからは聞こえないしね」と耳元で囁く。いきなりいつもの尾浜さんに戻るからドキリとする。そして耳にかかる吐息にも。少し酒臭いのが難だけど。洗い物をしていた手が止まり水だけがザアザアと流れていた。

*prev | next#
目次

TOP
「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -