いきなり大ピンチ 1


店の外で皆たむろってる。宴会がお開きになって私は解放されると思ったのに、なかなか解散しない。
「時友さん。みんな何してるんですか?」
彼は苦笑して指差した。かなり酔ってる平主任と次屋君の二人が一緒に帰ろうとしていた。なんて無謀なと私が呟くと時友君が再び同じ方向を指差す。
その先にはなんと…、あの富松君が待っていた。でも見たところ彼だけはシラフのようで、几帳面なのか責任感が強いのかつくづく苦労性で損な性格だと思う。

「ほら三之助。平主任をしっかり支えてろよ。帰るぞ!」
眉を落としながらシロちゃんが気の毒そうに見ている。
「飲み会の後はいつも主任を連れて独身寮(仮)に帰るんです。主任の家、遠いから」
この時だけは後輩も多目にみているんだろう、平主任はなんのかんのいってもイイ人だから。でも「あの人カッコ付けだから翌朝の落ち込みっぷりが見物なんだよなぁ」、誰かがぼそりと呟いた。


「ではお疲れ様でした〜」と皆それぞれの方角へ散ってゆく。今日は金曜日だから帰ってゆっくりお風呂に入ろうと思った矢先だった。後ろから来た声に飛び上がる。

「お客様ーお忘れ物ですー」
お店の人が走ってくる。彼が手に持つ肌色の座布団みたいなものを見て思い出す。
しまった!!私ったら気が緩んで、ついでに食べ過ぎたからベルトも緩めたんで、贅肉パッドを落としてきたんだ!自分の胸から下を見るとやけにすっきりしている。そりゃそうだよね。力なくお店に人に笑いかけ「それは私のです」と名乗り出る覚悟を決めた。

その時、いきなり横から出てきた茶髪の女の子が、「私のですっ!」と顔を真っ赤にしながら私のパッドをかっさらっていった。何が起きたのか分からず呆然としているとぽすんと肩を叩かれる。

「七紙さん、帰るぞ」
ゲッ、係長まだいたのっ!奴は私を引きずるが如く強引に歩き出した。
「ちょっ、どこに行くんですか」
七松係長は酒が入ってるせいもあってか、いつも以上に私の話を聞いちゃいない。ちょっ、そっちは駅と逆方向ですって。私は焦った。何故なら通りを渡った向こうに小さな公園があるからだった。ビジネスビル群の谷間にある小さな憩いの緑地と言えば時々仲の良いカップルが…。

いきなり七松係長がこちらを向いて手を伸ばし私の眼鏡を取り上げた。指先で頬やら眉やら、既にメークの崩れかけている顔のあちらこちらをこすっていく。そして大きな手で髪を撫で付けると、改めて私をまじまじと眺めた。
「ほら、私の思った通りじゃないか!」
うんうん可愛い可愛い、とか、勿体ないとか、資源の無駄使いは良くないな、なんてニコニコしながら一人で喋っている。私は身の危険を感じ始めた。

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