入社しました 2


浦風さんが言った。
「七紙さんは綾部先輩と同じ学年ですね」
あの不思議美少女の喜八ちゃんと私が同学年ですか。もう生まれた星そのものが違うような気がしますよ。でも気を取り直して
「年上だけど後輩ですからご指導お願いいたします」と応えると笹山さんが私の方を向いた。
「みんなこのプロジェクトで1ヶ月前に集められたからご心配なく。でも先輩として指導してもいいですよ」と利発そうな顔をニッと歪めた。何かコワっ。

「あの、もう聞きましたか?この課の業「私から説明しよう」」
籐内美ちゃんが話そうとすると立花さんがそれを遮った。気の毒。
「我々は社内の風紀取締係といったところかな。ぶっちゃけ影のセクハラ始末人だ」
えぇっ、こんな美少女や美女選び放題でセクハラ取締りって男性社員には非常に酷ですよ。
「まぁ極秘といってもこの程度だから、気楽にやろうじゃないか」と立花さんは肩をたたいた。ブラウス越しに添えられた手が冷んやりとしていて美女は低体温なんだと実感する。

それにしてもこの中にいる私って超が付くくらい月並みな容姿なんですが、どうしたらいいんでしょう。
「そんなことはない、この係に選ばれたのだ。充分カワイイぞ」と立花さんが顔を近づけるから胸のドキドキが治まらない。相手は女性なのに。ホント彼女は妖艶って言葉がよく似合う。

「じゃっ始めますか?」兵ちゃんが言った。何をっ?と聞く間もなく私にメークが施される。それが冒頭の事態に繋がるのだった。


私は見事に中米発ドラマのヒロインみたいなイメージで変身させられた、らしい。周りはクスクス笑っているし、立花さんも嫌な笑みを満面に浮かべている。
笹山さんに横から鏡を差し出されて私はぶっ飛んだ。ていうか何ですか、この目元は?!やけに睫毛がバサバサすると思ったら、この部分だけで100グラムは体重増えてそうだし。体つきも詰め物を駆使して普段の私より10キロ増し位だろうか?
でも、まあ、女性から見れば可愛いと言えなくもないかもしれないような、なんというか。でも男性から見ればたぶんクリーチャー扱いみたいな、そんな感じ。

「完っ璧だ」
腕組みして見ていた立花さんが唸った。どこがだよ。
「いいか。美女におさわりもセクハラだが、不美人に対する嫌がらせもセクハラなんだぞ」
あぁそうですか。って何故に私がその役?
「アミダくじ〜」喜八ちゃんがどうでもよさそうに答えた。藤内美さんが紙を見せてくれたが、当たりを辿ると新入りって書いてあった。きっと逆引きしたんでしょうよ。とにかく今日からやるしかない、私は決意を固めた。

「何、当り(の男性社員)が出れば美女に戻って鶴の恩返しをすれば良いじゃないか。胸のすくような快感だろう?」と立花さんはさも愉快そうに笑った。もう!人の気も知らないで。

冷静な籐内美ちゃんが立花さんの袖をちょいちょいと引く。
「先輩、肝心の事を伝えていませんが…」
「お、いかん。余りに男共の間抜け面を想像すると愉しくてな。肝心なことを言い忘れていた」
私はゴクリと息を飲んだ。
「他社のスパイが紛れ込んでいるようだから、そいつを見つけ出して報告するように」
ああ、それ一番重要な案件じゃないですかっ。本来はそっちが本来の仕事では?それにしても産業スパイなんて怖すぎです。
「何、端からバレてるような間抜けだ。心配ない」
そりゃ仙子さんの迫力なら心配ないですけど。
私は一抹の不安を抱えながら初日の第一歩を踏み出した。

-------------------
迫力の♀立花先輩。忍びはガッツじゃ!

- 2 -
*prev | next#
目次

TOP
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -