真相 B


一体いつからだろう。奈々が俺に怯えるようになったのは。

今日も奈々は扉を固く閉ざして俺の侵入を拒んでいる。だが俺はやらねばならない。端からどんなに乱暴に見えても、引きこもり続ける奈々をここから出さねばならなかった。
少し苛立ってドアをノックする手に力が籠る。おっと、マズイな。また奈々が怯えてしまうじゃないか。俺はなおもドアを叩き続けた。

埒があかないので俺は鍵を壊すことにした。そうやって鍵を取り替える羽目になるのも、もう何回目だろう。
やっとのことで鍵を外して扉を開ける。が、いつもと同様奈々はチェーンをかけている。仕方なくこのために用意した専用のカッターで鎖を切った。業務用のそれはまるで針金を切るようにあっさりと仕事を終えた。

やれやれと思いながらドアノブに手をかけた瞬間、奈々が扉に体当たりしてきて俺は廊下に転がった。窮鼠猫を噛むといった状況の奈々は時折とてつもない力を発揮する。俺はそのことをすっかり忘れていた。
強かにうちつけた腰を擦りながら俺はエレベーターのボタンを押した。おそらくあまり体力のない奈々はまだ中層階辺りにいるだろう。
案外早く来たエレベーターに乗り込み1階のボタンを押すと不快な浮游感と共に降下を始めた。

ズンという軽い衝撃と共にエレベーターが開く。俺を見た奈々は恐怖に顔を歪めて絶叫した。そしてよく分からないことを喚きながら外へ走り出ようとする。俺はすんでのところで奈々の腕を掴んで引き止めた。
何事が起こったのかと通行人が俺達に注目する。俺は堪らず、何でもないんですよと引き攣った笑顔を浮かべた。通りかかった男性の「何だ、痴話喧嘩か」という声に俺は胸を撫で下ろした。
だが、またもや奈々が「助けてー、殺されるーー」と声を張り上げて泣き叫ぶから堪らない。俺は恐縮して道行く人にご迷惑をお掛けしましたと頭を下げた。何処からか「大変ね、お気の毒に」と囁くのが聞こえた。

人垣がなくなるとその場には俺と奈々の二人が残された。俺は奈々が落ち着けるよう穏やかな微笑みを浮かべる。

安心しろ、奈々。俺がずっと傍にいてやるからな。

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