同い年のくノ玉 2


15禁展開、ご注意







八左ヱ門は千夜の顎に手を添えそっと上に向かせると、そのふっくらとした瑞々しい唇に自分の唇を静かに押し当てた。何度も何度も角度を変えては啄むと千夜の口が少しだけ開く。すかさず口内に舌を滑り込ませて舌先で内側を撫でると千夜の舌も八左ヱ門に絡みつき互いの口腔を行き来し始めた。
千夜の背中の凹凸を八左ヱ門の手がなぞると次第に千夜は支える八左ヱ門の腕に身を委ねてくる。力の抜けた千夜の身体に八左ヱ門は自分の体重を軽くかけるとそのまま布団に寝かせようとした。
「……ねぇ、竹谷」
「何だ?」
八左ヱ門の優しい声が暗がりに響いた。
「一瞬迷ったでしょ?私を好きって言ったとき」
さっきまで熱く口付けを交わしていた千夜の冷静な声に八左ヱ門はどきりとした。確かに八左ヱ門は好きかと聞かれた時、ほんの一瞬返事が遅くなった。
「そんなことねえよ」
「誤魔化されないから。それくらい見抜けなきゃくノ一は務まらないもの」
「あのなぁ。じゃあ今まで千夜と一緒に出掛けたりしたアレ、逢い引きじゃなかったのかよ?」
「竹谷のくせに…」
「俺が何だよ?」
半ばふてくされたように返事を返す八左ヱ門から千夜が視線を外し目を伏せる。苦しそうに震える唇は艶やかで、薄明かりに浮かぶ寝間着の千夜は昼間とは別人のような女の色気を感じさせた。
「竹谷の馬鹿っ!前の女ならとっくに手を出してたじゃないっ!」
千夜にそうしなかったのは決して嫌いだからじゃない。ただどうしても自分の姉妹のように感じてしまうから、自然と肌を合わせる雰囲気にならなかっただけだと伝えたかった。

だが八左ヱ門の心の奥底はどうだろう。正直なところ今までの子供っぽい千夜とはそんな気分になれなかった。今はどうだ。目尻に雫を滲ませ八左ヱ門の前で少女と大人の間を揺れ動く。その千夜が八左ヱ門には愛しくみえて堪らない。これが魔の刻の力というものなのだろうか。湧き上がった感情は熱と結びついて八左ヱ門の身体中を駆け巡り、やがて一点に集結する。八左ヱ門はもう一度腕を伸ばし、今度こそ心から大切に感じながら女の子らしい丸みを帯びた柔らかい身体を抱き締めようとした。

「止めてよね」
嫌がる仔猫のように両腕を突っ張って顔を背ける千夜は、八左ヱ門を押し退けようと抵抗した。男女の体力差を考えればその程度抗っても、あまりにささやかすぎてほとんど意味はない。しかも相手は五年の中でも体格のいい方に入る八左ヱ門だ。
「もうじき色の実習が始まるから、せめて最初は諸恋の人がいいと思ってたのに」
「待てよ、俺も……」
「馬っ鹿じゃない?躊躇ったくせに」
「…………悪ぃ」
「今まで会ってたのは何だったの」
甘いと言われようとそれは千夜の意地だった。竹谷は自分を好いていて互いに思い合っている。ならばこそ、と思っていた。一番好きな人に一番最初に抱かれたらその思い出だけで後は嫌な相手でもやり過ごせる、そんなふうにも千夜は思っていた。
だが、結局くノ一はこんなものかもしれない。「大して好きでもない相手が最初なら、共寝すること自体に特別の感慨を抱かなくなる」といった先輩のことを思い出した。

「今日は帰って」
「…千夜」
それでも名残惜しいのか八左ヱ門は千夜をがっしりと掴んで放そうとしない。千夜は益々苛立った。
「竹谷、自分がどこに居るか分かってんの?くノ一屋敷だよ」
私が騒げばアンタどうなると思う、と千夜は竹谷を上目遣いに睨みつけた。
「分かった……また連絡する」
八左ヱ門は来たときと同様、音もなく飛び上がり天井に手をかけると、外した板の隙間に軽々と身を滑り込ませた。静かに天井板が元に戻される。八左ヱ門の気配が遠ざかると辺りには静寂が戻った。

暗闇の中、上掛けをぐっと握りしめる千夜の手の甲にぽたりと水滴が落ちる。次から次へと溢れ出ては頬を伝う温い塩水で、寝間着の衿が湿って気持ち悪いと千夜はどこか冷めた頭で考えていた。

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