同い年のくノ玉 1
15禁展開、ご注意
明日は久々の休日だから夜更かしする者で学園全体が静かに蠢いていた。夜間の自主鍛錬をする者の他に恋仲の部屋へ忍んで行く者も多いようで、八左ヱ門は親しいくノ玉の部屋まで天井裏伝いに行くうち、見知った人影に度々出くわした。もちろん相手も野暮用である訳で八左ヱ門を見ても互いに知って知らぬ振りをする。
こんなに分かりやすく忍んでいて教師達が何も言わないのが不思議になるが、上級生同士のこととなるとある程度は見逃しているようだった。だから上級生忍玉が一、二年生や恋仲でもない大人しいくノ玉を無理矢理にとでもなれば厳しく処罰された。もっともくノ玉の場合は何かあれば同室の生徒が騒ぎ立てるから大事に至ることは少なかったが。
天井板の隙間から目当ての部屋を見下ろすと件のくノ玉、千夜が一人で眠っている。幸い彼女の同室の娘は出かけているようで布団も引いてない。今夜は帰らないということだろうと八左ヱ門は判断した。難なく板を外すと音もなく千夜の枕許へと降り立つが彼女は一向に目を覚ます気配がない。八左ヱ門は千夜の寝顔をもっとよく見たいと近付いて覗きこんだ。
ぷっくりとして柔らかそうな唇からは規則正しく寝息が漏れている。外から入る明かりが千夜の白い首筋を浮かび上がらせ解かれた黒髪が布団に広がっている。上掛けもまた規則正しく上下してその下に隠れている魅力的な膨らみを八左ヱ門に想像させた。八左ヱ門は千夜にそっと声をかけた。
「千夜、寝てるのか?俺だ、起きてくれ」
滑稽な問いかけだが寝た振りをしているのかもしれなかったからだ。
しばらく様子を見るが千夜の起きる素振りはない。日頃の活発な姿からは想像もつかないほど穏やかで可愛らしい千夜に八左ヱ門は胸が高鳴る。もっと近付きたいという衝動に駈られて八左ヱ門は唇が触れそうになるほど顔を寄せた。
その瞬間、すっかり油断していた八左ヱ門は腹部にあり得ない衝撃を受け後ろに蹴り飛ばされた。吐きそうなほど咳きこみながら顔を上げれば、千夜が上半身を起こし上掛けを握り締めながら泣きそうな顔で八左ヱ門を睨み付けている。
「こっ、こんな時間に…、な…何しに来たのよっ」
「…っな、何って…ナニ…や、違、んぐ。会いに…んっ」
千夜は冷静を装っているが指先の微かな震えが動揺を示していた。まだ誰にも忍んで来られたことがないのだろう。千夜は大声で助けを呼ぼうともせず八左ヱ門の説明を待っている。それを見て取った八左ヱ門は咳が治まるのを待って話し掛けた。
「確めたくってよ」
「……何を、確めるの?」
「千夜、お前さ……」
千夜は小首を傾げて八左ヱ門の次の言葉を待っている。くりっとした目で見つめてくる小動物のような可愛らしさに八左ヱ門は息を止めてごくりと唾を飲み込んだ。柄にもなく心臓がばくばくと早鐘を打つ。
「俺が好きかっ?」
千夜は面食らったように動きを止めて八左ヱ門を見つめ返す。上掛けを握り締める手にも力が入る。ゆっくりとその首が上下して恥ずかしそうにうつ向いたままになった。
八左ヱ門は顔に血が上りこめかみにじんわりと汗をかく。嫌いじゃない女の子に好きと言われて気持ちが高揚しないなど男ならあり得ない。八左ヱ門は喜びと嬉しさがない交ぜになって堪らず千夜を抱き締めようと手を伸ばした。
「待って、竹谷はどうなの?」
凛とした声とともに千夜が顔を上げた。声が震えている。
「竹谷は…私のことどう思ってるの?」
見上げる強い眼差しに八左ヱ門はたじろいだ。ほんの一瞬だけ胸の内に今日一日のことや様々な人の顔が浮かぶ。もちろん深雪のことも例外ではなかった。
「……好きに、決まってんだろ」
そう言って八左ヱ門が千夜をしっかりと抱き締めると千夜はおずおずと八左ヱ門の背中に腕を回した。竹谷と千夜は同い年だが千夜よりずっと逞しい胸に顔を埋めると、嗅ぎ慣れたくノ玉逹とは違う男の匂いがする。八左ヱ門がよりいっそう力をこめて千夜の頭を胸板に押し付けると、せわしなく脈打つ八左ヱ門の鼓動が耳に届いた。でもその嬉しい筈の八左ヱ門の温もりが千夜には何故だか切なく感じられて胸が苦しくなった。