六年のくノ玉 2


「じゃぁ、率直に伺いますけど…深雪さんって今、気になる忍玉はいるんですか?」
イトの問いかけに驚いた深雪は一瞬言葉を失った。鏡を見れば間違いなく口を開けたままの間抜けな顔になっていることだろう。「それにしても」と深雪は言葉を搾り出した。
「あのねぇ。くノ一らしく、もっと然り気ない聞き出し方ってないの?」
「あら、私は相手を見て尋ねてますよ。だって深雪さんは素直に答えそうなんだもん」
再び深雪は驚かされた。なんとまあ、大胆な娘だろう。深雪は眉尻を下げて苦笑しながら、勝ち誇った笑みを見せるイトの口許へと目をやった。
「みんな気のいい子だからよく話はするけど、これといったのはねぇ…第一、全員かなり年下だし」
深雪がそういうとイトが目を瞬かせ不思議そうな顔をした。
「かなり年下って、深雪さん一体いくつなんですか?」
一瞬言葉に詰まるが脳裏に彼女の姿が浮かぶ。
「……シナ先生だって不明でしょうが」
「それは…確かに。んじゃ…聞きませんけど。実はその…」
ニッと笑って興味津々な顔で質問を浴びせかけていたイトが再び小声になった。今度は真剣な面持ちになり真っ直ぐに見つめてくるので、深雪は息を殺すと次に発せられるイトの言葉を待った。
「もうすぐ五年のくノ玉も色の実習が始まるんです。あ、でも全員じゃなくって、くノ一志望の子だけね」

イトによると忍玉男子の場合その実習は既に四年の終りから始まっているらしい。男の方が色の誘惑が多いから早めに慣れろということのようだった。確かに隠して遠ざけるよりは包み隠さず明らかにする方が余計な手間がかからない。深雪の見た限りでも、この時代は性に関して大らかだった。
だから、とイトが深雪に目配せをする。
「ほら…くノ玉ったって女の子だから、まだの子は初めてくらい好きな人がいいでしょ?いずれ嫌な奴に脚を開くんだし」
「忍玉の回りをうろうろするなって?」
「今の時期だけの恋仲なんだし。どうせ卒業時に別れることが多いんだもの。特にくノ一になる子は」
「そう…なるほどね」
「だから忍玉によっちゃ掛け持ちで大変って。二股三股になっちゃってねぇ。ほら、人気のある男子には集中するでしょ?」
ここだけの話ですよ、後輩には内緒ね、と悪戯っぽくクスリと笑う。その小悪魔のような笑みが魅力なのだろう。腹の中にある本心までは分からないがイトは割とさばけた性格をした女のようだった。

「ありがとうございました。私の聞きたいことは大体伺えたので」
深雪が怪訝な顔をしたのだろう。イトが小声で耳打ちした。
「アイツらは貴女から相手にされていないみたいですしね」
「どうして?」
「だって忍玉のことを、ごく自然に『子』って言ってたでしょう?男として見てらっしゃらないってことだもの」
イトが湯槽から立ち上がった。艶のある肌が湯を弾いて水滴が表面を転がり落ちる。贅肉のない伸びやかな肢体には隙がなかった。
「じゃ、またお話ししましょうね」
ええ、またね。そう応えたものの、あれは何だったのかと深雪は狐につままれたような気持ちになる。だがかなり長時間湯船に浸かっていたらしく、湯あたりしそうな眩暈を感じて深雪も慌てて風呂から立ち上がった。

- 33 -
*prev | next#
目次

TOP
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -