青紫の企み 4


「ごめん、言わなきゃ良かった。この学園は皆隠したい何かがあるみたいだけど、何がいけないのかまだよく分からなくて」
深雪は三郎からそっと腕を引いた。八左ヱ門が少し慌てた様子で口を開く。
「深雪、…深雪は見ただけで何でも分かるのか?」
焦る八左ヱ門は何か恥ずかしい隠し事でもあるのだろうかと深雪は思った。
「全部だなんて、とても分からないよ。その気にならないと視えないし。漠然としてるもの。でも私は生きてる人より人間でないものの方が見易くて、ね」
苦笑いする深雪に向かって「なるほどな」三郎がと声を出したので、皆の視線が集中する。
「面皮は生きてないから目立つのか」
深雪が無言で頷くと三郎が挑戦的な目付きを向けた。

「今後、発言に気を付けると約束するなら、私はあなた達の滞在を認めてもいいぞ」
深雪がほっと安堵の溜め息を吐くと勘右衛門がつまらなさそうに口を尖らせた。三郎が想定して話した計画より面白くない展開だったのだろうか。
「いい加減にしなよ、三郎。俺こんなことで危ない橋渡りたくないし」
なおも不服そうな勘右衛門は続けた。「空き時間で饅頭買いに行けたのに」と。
「ついでだから言うけどさ。学園長だってお客さんにちょっかい出すなって朝礼でいってたじゃん」
そう付け加えたのが本当についでのように聞こえる。八左ヱ門が勘右衛門の口を押さえて「お前は空気読め」と小声で言ったのが深雪の耳に入った。
「どうせなら友達とはよく口裏を合わせておかないとね、さ、ぶ、ろ、う」
深雪がニヤと顔を歪めると居合わせた者が困り笑いを浮かべた。
「でも、まあ……君達の人柄がよく分かったし面白かったけど?」
悪戯っぽくいえばその場の空気が緩む。傍らの睫毛美少年が久々知兵助だと名乗り、例のそっくり少年が優しい微笑みを浮かべて深雪に詫びながら、逃げようとした三郎の首根っこを掴む。その彼は三郎に幾つか拳骨を落とすと自分は不破雷蔵だと名乗った。可愛い顔していい性格だとよく分かる。

「深雪ちゃん、悪かったね。八ちゃんが剥かれたからさ。皆で意趣返しってやつかな?」
「いや、むしろあれはご褒美だろう」
目の前にいる三郎の発言はさらっと無視して深雪は勘右衛門の方に振り返った。
「やだ、あなた逹仲いいのね」
「お詫びに今度美味しいお茶菓子用意するから忍玉長屋においでよ」
「勘右衛門はお菓子に関して目利きなんですよ」
横から穏やかな笑む雷蔵が口添えする。雷蔵が言えば裏がないように聞こえるが、先日のこともあって深雪の中で勘右衛門の信用度が低い。
「勘右…勘ちゃんのいう『美味しい』って毒が入ってるとか?」
「仮に入ってても深雪なら分かるだろ?罠だって避けるくらいだからな」
八左ヱ門が妙に自信ありげな様子で深雪に笑いかけた。三郎が憮然とする。
「我々をくノ一教室の連中と一緒にしないでもらいたいな」
同じ学園の忍玉にすら一服盛るほど、くノ一が危険な子達だとは初めて知った。
「じゃ、そろそろ失礼しようか」
「そうだな、飯の前に餌やりしねえとな」
「そりゃ八ちゃんだけだろ」
「ていうか、そろそろ色々出るしな」
その場にいる者が皆、微妙な顔で微笑んだ。
「では、また」と雷蔵の一声で潮が引くように全員が走り去る。瞬く間に姿が見えなくなると、やはり彼等は忍者の玉子なのだ深雪は痛感した。賑やかなのも悪くないと久しぶりに思えた深雪だった。

- 23 -
*prev | next#
目次

TOP
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -