漁村シーブル
のどかな村に大きな声が響いた


「ばかもん!」


寧ろ日課となっている怒鳴り声に、ルベラは溜め息を吐いた


「やっぱり今日も怒鳴られてる」


昼食の準備をしながら、玄関先で繰り広げられているやりとりを想像する


「…そろそろ呼びに行こうかな」


ルベラは昼食の準備を終えたテーブルを見つめた。そして、玄関の扉を開けた


「2人とも、ご飯の準備出来たよ?」

「ホント?」


ルベラの言葉にシングは嬉しそうに笑った。祖父・ゼクスとの修行はお腹が減るらしい


「やったぁ、ご飯だ!」


そう言うとシングはさっさと家の中へ入った
ルベラはゼクスを見る


「何かあった?」

「…いや、何でも」

「そう」


ルベラはゼクスの答えに何も言わなかった
何かあっても、自分には言わないだろうと思う


「ジィちゃん、姉ちゃん。早く!」


家の中から、シングが2人を呼ぶ

空腹で待てないのだろう

ルベラとゼクスは、家の中へと入った



「はぁ〜〜〜食べた、食べた!」


昼食を終えたシングは満足そうにお腹をさすった
ルベラは3人分食器を片付ける

その時、扉がノックされ、近所に住む男性が入って来た


「ゼクスさん……ちょっといいか?」

「どうしたのだ?」


ゼクスは男性を迎え入れると、訪ねてきた理由を聞いた


「隣街の兄の娘が、もう何日も口もきかず部屋からも出てこないらしい。兄は、例の『デスピル病』じゃないかって心配してるんだ……。ソーマで診てはくれないか?」


“デスピル病”

ルベラは表情を曇らせた


「デスピル病、最近流行ってるんだってね。スピリアが暴走する原因不明の奇病なんだろ?」


シングは得意そうに続ける


「『スピリア』ってのは難しく言うと精神と意思を生み出す『生命の根源』だからねぇ。それを癒せるのは、人のスピリアの中に『リンク』出来る、神秘の武具『ソーマ』だけさ!」


シングは恐らくゼクスの受け売りであろう台詞を、自信満々に言った。ゼクスはシングに渇を入れる


「お前は黙っとれ!」


ゼクスは続いて男性を見る。ルベラは話に入らないように、食器を流し台へと運んだ


「でもオレ、死んだ母さんがソーマ使いだったとは聞いていたけど、ジィちゃんもソーマが使えるなんてあの時まで知らなかったなぁ」

「明かす気はなかったが、暴れた男には『ゼロム』が憑いておったからな……」


ゼクスは一度言葉を止めると軽く俯いた


「…まさか、『彼女』の身に何かが? ソーマリンクの感触では、かなり力が衰えているようだったが……」


シング達に聞こえないように呟いたが、ルベラには聞こえていた

今触れるべき話で無い事は分かっている。だから、あえて何も言わなかった


「…一度様子を診て、ソーマを使うか判断しよう」

「そうこなくっちゃ!」

「…シング、お前はルベラと留守番だ」

「ええ、またかよ!?」


シングはゼクスの言葉に大きな声をあげた

ゼクスはシングを村から出る事を許さない
それには理由があるのだが、シングはそれを知らない


「オレは、もう子どもじゃないんだ! 訳のわからない命令はいい加減にしてくれッ!!」

「理由はそれだ。シング、教えたはずだぞ。怒りや憎しみ……強い感情に飲み込まれてはいかん、と」

「………」

「シング、大人しく留守番してよう?」


ルベラが言うとシングは渋々と了承した

ゼクスは土産にグミ大福を買ってくると言って出掛けた


「…浜に行ってくる」

ゼクスが出掛けたのとほぼ同時にシングはルベラにそう言った

ルベラは軽く溜め息を吐き、家を出たシングを見送ると食器を洗い始めた



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