《シャンプー》
#01_兄貴代理:03




「別れ話とかしたの?」

「…した」

「それでいいの? 弥生ちゃん納得してんの?」

「相手の人…、に、妊娠したって言うんだも…」


 ああもう、言葉にならない。

 それは決定的だ。

 やっぱなぁ。
 俺の目も狂ってなかった、ってことか。


「でも、髪切ることねぇだろ。もったいねぇよ、そんな男のために切るなんて」

「そんな男でも、好きだったんだもん」


 相当泣き腫らした瞼が痛々しくて、思わず手を伸ばしてしまう。


「こんな泣いて…」


 葉月が事実を知ったら、えらいことになるぞ。


「…シャンプー、しようか」

「へ…?」

「少しは落ち着くかもよ」


 ポンポン、と撫でて、ソファに弥生ちゃんを残し、シャンプー台の用意をする。

 …――マズいなぁ、俺。


「おいで」


 こんなとき、かけてやれる言葉が見つからない。

 言葉がない代わりに、せめてシャンプーでもして、リラックスさせるくらいしかできないんだ。


 シャンプー台に弥生ちゃんが座ったのを確認して、ゆっくりシートを倒す。


「それ、いらない」


 顔にガーゼをかけようとしたら、断られてしまった。

 あぁ、いよいよマズい。


 温めのお湯で、まんべんなく髪を濡らしていく。

 いつ見ても綺麗な髪だよな。

 細くてコシがないのがヤだ、って、弥生ちゃんは言うけど、それが彼女の雰囲気に合っていたりする。




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