《Hot Chocolate》
#02_勘違い:01



 ――柳井くん、三組の江藤さんと付き合いはじめたんだって



 そういう噂話は、教師の耳にも入ってくる。

 噂を総括すると、柳井は昨日の昼休みに三組の江藤にチョコをもらって告白され、そのまま付き合うことにしたらしい。


 …ふぅーん。

 なんとなく、読めてきたぞ。

 おそらく。

 綿貫は昨日の放課後、柳井にチョコを渡そうとしていたけれど、昼休みに江藤に先を越されたことを知って渡すのを諦めた――とか、そんなとこだろう。

 柳井と江藤が、ふたり揃って帰って行く姿を何人も見ているらしいから、綿貫も見たうちのひとりだと考えれば。

 きっと何日も前から決意して緊張していただろうに、それが無駄になってしまったのだ。

 失意のままに持て余していたチョコを、成り行きで放課後出くわした俺に押し付けたとしても、…まぁ、不思議はない。


 知らないこととはいえ、罪な男だな、柳井よ。


 ボールを追いかけて壁際まで拾いにきた柳井の背中に、そっと毒づく。

 や、別に柳井が悪い訳でも、江藤が悪い訳でもないんだ。

 ただ、なんていうか――。


「センセー、二日酔い?」

「…」

「せーんーせーえー?」

「…」

「…」

「……」

「…、榎本っ!!」

「うわっ、は、――…あ、なんだ柳井か」


 わ、なんだ、俺、どうした!?


「なんだ、じゃねぇよ、しっかりしてよセンセー。しかも酒臭いしよ、今日」

「…マジ?」

「もう放課後だってのにさぁ。なに、昨日彼女サンとケンカでもした?」


 彼女、ね。

 お前の愛しい彼女は、さっきからずっと体育館の入口でお前を見てるようだけど。



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