《Hot Chocolate》
#01_きっかけ:02



 …いやいや、待てよ?

 義理チョコにしては、ラッピングが丁寧すぎやしないか、コレ。

 てか、こいつの名前だって思い出せないのに受け取るとか、ちょっと、なぁ。

 いや、そもそもがそういう問題じゃないな。教師と生徒の禁断のカンケイとか、ナシだぞ。俺はまだ、無職にはなりたくない。


「あー…、えーと、な、」

「もしかして、彼女さんに怒られたりとか、」

「や、そんな人は今いないからいいんだけど」


 何を馬鹿正直に答えてんだ、俺は。

 こういうのは、軽くあしらうようにサラリと受け流すのがいいんだ。

 そうすれば、きっと、ええっと、うーん、…あー、こいつの名前何だっけ。

 参っちゃったなぁ、ノドまで出かかってんだけど。


「迷惑だったら、捨ててもらってかまわないので」


 泣きそうな顔と目が合って、気まずそうに逸らされる。

 あー、ごめんな。

 今の俺は、迷惑とかじゃなくて、名前が思い出せなくて困ってる顔なんだよ。

 ヒントくれないか、ヒント。


「受け取るだけでも受け取ってください」


 ドン、と、胸のあたりに軽い衝撃が走り、白い箱が押し付けられる。


「あ、おい、待て綿貫――!」


 咄嗟に名前を呼んで、彼女が走り去った教室の後ろのドアを振り返るが、もう綿貫は教室を出て行ってしまった。





 そうだ、綿貫だ。

 綿貫まどか。







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