《Love Songs》 #05_スローバラード:6 やけに静かになった、と思えば、泣き疲れたのか、眠っていた。 「…重てぇ」 起こさないように気にしながら、座る位置を直す。 俺の胸元を握っていた手が、ぱたりと毛布に落ちた。 少し冷たいその手を、温めるように手の平で掬い上げる。 窓の外は、いつの間にか深い霧を纏っていて、星空みたいな夜景が、霞んで見える。 「…ん、……」 夜霧よりも淡い寝言が聞こえて、俺は深くため息をつく。 ――…ニブい男扱いしやがって。 気付かない訳、ねぇだろ。 どんだけ傍にいると思ってんだ。 バイト先のフリーターがフェイクなことくらい、とっくにお見通しなんだよ。 こんなに思い詰めていたことには、気付けなかったけど。 カーラジオからは、こいつが気に入っているスローバラードが流れてきた。 そういや、この曲、俺がCD貸してやったんじゃん。 寝ているはずなのに聞こえているのか、少し微笑んだような気がした。 まぁ、さ。 お前とこれからもずっと一緒にいる、っていう人生も、悪くはないかもしれないな。 -------------------- A tribute to Kiyoshiro Imawano “スローバラード” 初掲 2009.05.15. 改訂 2010.07.22. 悠 -------------------- [*]prev | next[#] bookmark |