《Love Songs》 #05_スローバラード:4 いつも助手席にいるこいつが後部座席にいるから? 連絡もなく、オフィスの前で待っていたりしたから? おばさんが泣いてたから? きっと答えはどれでもない。 ただひとつ。 いつもと様子が違うけれど、俺がその理由を掴みあぐねていることだけは、確かだ。 「わぁ! ホントにすごい!」 市営グラウンドは小高い丘の上にある。 昼間は直通のバスも走っているが、夜になれば、ここまで来る手段は車かバイクぐらいしかない。 「こういうのはさぁ、デートで来るもんだろ?」 「高校生にはムリ」 墨の中に銀粉をちりばめたような眼下の景色は、まるで満天の星空。 住み慣れたちっぽけな街も悪くないな、と思わせる。 「アレ、どうしたんだよ。バイト先の」 「…あぁ、うん」 笑みを顔に残したまま、声が沈む。 好きだ、とは言葉にしないまでも、あれやこれやと態度に出しているのに、一向に気付いてもらえない。 こいつがバイト先のフリーターに恋心を寄せてからというもの、そんな話を幾度も聞かされてきた。 「やっぱり、高校生って子供なのかな」 「どうかな」 「最近、彼女と別れたみたいなんだけどね、…それでもあたしは眼中にないみたい」 「いつか振り向かせる、って、息巻いてたじゃねぇか」 「うん、…」 オフィスの前で待ち伏せてみたり、しょぼくれてみたり、今日はなんだかいつもと違う。 「やっぱりさぁ、潮時、ってあるよね」 「年寄りみたいだな、お前」 「なによっ! …っくしゅ!」 「あーあー、色気の欠片もないくしゃみしやがって。車入れ」 「…ん」 [*]prev | next[#] bookmark |