《Love Songs》 #02_クリスマス・ラブ:2 ジンジャーブレッドが大好きで、ケーキはブッシュ・ド・ノエルじゃないと雰囲気が出ないと言い、チキンは絶対に自分で焼くと譲らない。 高層階のホテルも、レストランでのディナーも『クリスマスは家で過ごすものなの』と、いつも断られた。 やっとの思いでプロポーズをした年のクリスマス、ヴーヴ・クリコを買おうとしたら、『あたしを未亡人にする気?』なんて、いなされたこともあったっけ。 あぁ、そうだ。 今年は、この大通りのイルミネーションを観に来る約束をしたんだった。 信号待ちをする車の中、ぼんやりとそんなことを思い出す。 なのに――。 いくら待っても、どんなに願い請うても、もう二度と、ふたりでクリスマスを過ごすことは叶わない。 奇跡でもおこらない限り。 なぁ。 ちょっとばかし、遠くに行き過ぎだろ。 逢えなくなるくらい離れることはないんじゃないか? 判っていても。 似た声が雑踏の隙間から聞こえると、振り返ってしまう。 似た髪型を見つけると、いつまでもその姿を目で追ってしまう。 現実を受け入れられないままに、どれだけの月日を過ごしたのか。 ――誕生日より何より、一年の中でクリスマスが一番好きなの 街並がクリスマスカラーに染まるよりも早く、ツリーやリースを飾って。 ポインセチアとゴールドクレストの寄せ植えをして。 とっておきのフルートグラスを箱から出して。 お手製のチキンを切り分けるためのシルバーを磨いて。 そうだ、クリスマスに返事をもらえるように、サンタクロースに手紙を書くのも忘れちゃいけない。 新婚旅行は、フィンランドに行ってサンタクロースと面会して、オーロラを見るんだろ? 結婚したら、毎年ロイヤルコペンハーゲンのイヤープレートを買うんだろ? おかげで俺もすっかりクリスマス通だ。 でも、な? [*]prev | next[#] bookmark |