《桜、咲く》
#05_元凶:12







 助手席に和紀を、後部座席に鈴を座らせて、車を出す。


「…千裕さん」


 腿に肘をついた両手で、頭を抱えた和紀の力のない声が、沈黙の車内に響く。


「ん?」

「俺、最低だ」


 顔を上げず、そのままの姿勢で微動だにしない。


「でも、」


 少し、間が空く。


「…千裕さんは、認めてくんないかも、しんないけど、俺、…俺が、鈴を守りたいんだ。だから、…」


 後ろにいる鈴が聞いていればいいな、と思いつつ、和紀の頭に手を置く。

 それきり、和紀は口をつぐんだ。





 和紀を降ろしたと同時に、鈴がまた泣き出した。

 俺には、かける言葉がない。


 あの雪の日、あの場所で、和紀を拾ってなかったら、鈴をこんな目に合わせることもなかったのだろうか。







「シャワー、浴びておいで」


 泥だらけの制服は、クリーニングに出してしまえばいい。

 叔父さんと叔母さんが帰って来る前に、一刻も早く、忌まわしい痕跡を、全て、消してやりたかった。


「千裕くん」


 泣きっ面の鈴が、声を搾り出す。嫌でも思い出す、あの頃。


「うん?」


 俺の背中で、鈴は声を殺して泣いた。

 涙の理由は、訊けなかった。





 それっきり、鈴は部屋から出てこなかった。

 叔母さんには、風邪っぽいから寝てるってよ、と、適当な嘘をついた。



 どいつもこいつも不器用だ。

 その最たるものが、木下だった訳だけど。


 和紀は、これからどうするだろう――?








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