《蛍の群れ》
#03_いろんなこと:01



「信頼されてんじゃなくて、試されてんだろうなあ」

「…試す?」

「そう。未来ちゃんの彼氏として、明日香の信頼を得るに値する男かどうか」


 あーちゃんの、信頼。

 あーちゃんが引導を渡した段階で、もう勝ち得ていると思うのは浅はかなのだろうか。


「だから今日は、一分たりとも遅れて帰る訳にはいかないな」


 残念、と、笑う望月さんの髪が、微かに雲間から漏れる夕日に照らされて、キラキラ反射している。

 あぁ、あたしって髪フェチなのかな。

 また触ってみたくなってる。

 でも、運転中だから。

 ぐっ、と、手を握って、我慢する。


「…そんなに見られてると、運転しづらいんだけど?」

「え、あ、ご…め、…なさい」


 慌てて車窓に視線を逸らし、身体ごと、助手席側のドアに寄る。

 うわ、あたし、そんな凝視してたんだ。

 恥ずかしくて、望月さんのほうを向けなくなってしまう。


「見つめ合うのは車を降りてからね」


 サラリと言われて、胸がザワザワする。


 今日はずっとこんな感じ。

 望月さんの台詞に、逐一ドキドキして、それだけでぐったりしそうなくらい。

 …やっぱり、それなりの年齢だし、望月さんはこういうの、慣れてるんだろうか。そうだろうな。

 あたしにとっては初めての彼氏だけど、望月さんはきっと違う。

 過去にヤキモチを妬いても仕方ない、って、充分判ってるつもりだけど、それでも気になるのは、あたしがコドモだからなのかな。

 おかしなことを言って、気まずくなりたくないから心の奥にしまい込んでいた感情が、また少し、顔を覗かせ始める。


 お姉さんで勘違いしたときみたいな、苦い思いは、もうしたくない。




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