《蛍の群れ》
#01_一目惚れ:02



 チャリチャリーン。


「お、っと」


 何、このお約束な展開。

 まるでマンガだ。

 焦って小銭を撒き散らしたりなんか。


「ご、ごめんなさ…!」


 小銭を拾おうとしゃがみ込むと、スクールバッグの中身が、床にドサドサと落ちる。

 あぁ、もう。最低。

 ちびまる子ちゃんか、サザエさんか。

 カウンターから店員さんが出てきて、一緒に小銭や教科書を拾ってくれた。

 他のお客さんがチラチラこっちを見てるのが、視界の端に見てとれる。

 恥ずかしいことこの上ない。


「これで全部かな?」


 単行本を差し出した手が、あたしの教科書やノートを持っている。


「す、すみませ…」

「へぇ、林田…、…ミライちゃん、ていうの? ミキちゃんかな」


 ノートに書いてあるあたしの名前は、そんなに珍しいだろうか。

 首を傾げて、店員さんは驚いた顔をしている。


「ミキ、です。林田未来」

「そういえば、俺の同級生にも“林田”っていたな。林田明日香、っていうんだけど。なんだか姉妹みたいな名前だね。明日と未来だなんて」


 俺の同級生なんか知る訳ないか、って、笑ってる。

 でも、あたしは笑えない。

 だって。


「…それ、きっとあたしの姉です」

「は…?」


 笑ったまま固まった店員さんの胸。

 小さな白いネームプレートには“望月”と、書いてあった。








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