《Hard Candy》
#02_初体験:01



 ――マ…サキ…


 たった三文字が、澪の目を濡らした。








「澪さぁ、春休みの間に彼氏と何かあったっぽいんだよねぇ。ずっと元気ないし」


 澪のツレの塚本由佳が、昼休みに保健室へ行った澪を心配したクラスメートに、そんなことを言っていたのが聞こえた。


 ふぅ…ん。
 あいつ、彼氏いたのか。

 まぁ、そりゃそうだわな。

 お高くとまってる訳でも、スレてる訳でもない。

 遊びでちょっかい出せるようなタイプでもないから、変な噂が立ったりも、しない。

 だけど、何故か目を引く。

 あれはちょっと、男が放っておかない。


「別れたの?」

「判んないのー。下手に突っ込んで訊くのも悪いし」

「ねぇ、澪の彼氏ってさぁ、確か、――…でしょ? あたしダメなんだよね、そういう男」


 大事なところが、よく聞こえなかった。

 なんだよ、女がダメだって言うような男と付き合ってんのかよ。


「澪ならいい男捕まえられるのに」


 国領いいよな、なんて、淡い恋心を抱いている野郎共も少なくない。

 そいつらが聞いたら、どう思うだろう。




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