ある雨の日の午後3時。
いつものように理事長室で面倒な書類に目を通していたら、恋人である玲が泣きながらやって来た。何事かと驚きながらも玲を落ち着かせようと彼女をいつものように正面から抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩いてみる。いつもならこれで収まるのだが、今日はそうもいかないらしい。どうしたのかと聞いても「嫌い」としか言ってくれない。

「(どうしたものか・・)」

背中から今度は頭をぽんぽんとゆっくりとたたく。すると玲が、小さな声で何か言っているのに気がついた。私は聞き逃すまいと耳を傾ける

『嫌い』

彼女の言葉に、何か嫌われるようなことをしたかと考えてみるが思いつかない。玲の言葉を聞くしかない。

「はい」
『わたしを置いていくメフィストなんて嫌い』
「私は玲さんのことが好きですよ」
『きらい、キライ』

あぁ、私は腕の中で泣きじゃくる彼女の涙を止める術をしらない。


で、最初で最後


(お願い、どうか泣かないで。)



2015.9.21 加筆