『ねぇねぇ、瀬戸ちゃん。聞いて聞いて』
「どうした。岡本」

練習が終わり、部員が次々と帰って行く中。私は職員室に呼ばれた真ちゃんの帰りを部室で待たせてもらっていた。そして現在、部室には私と瀬戸ちゃんしかいない。瀬戸ちゃんとは普段の学校生活の中であまり遭遇する機会が少ないので(たぶん寝てるんだと思う)、部活の練習や大会の時にしか話せなかったりする。

『この前、進路希望調査書配られたでしょ』
「あー。そんなのもあったな」
『進路のことなんて考えていなかった私は困った訳ですよ。なにせ3年生になれるかも分からないというのに、その先のことまで考えろだなんて…』
「あ、あぁ(岡本ってどんだけ馬鹿なんだよ。よくこの学校に入れたな)」
『そこで私は相談しました』
「誰に」
『真ちゃん』
「相談する相手を確実に間違えたな」
『私も後からそう思ったよ』

哀れな目で私を見る瀬戸ちゃん。でも、どんなに馬鹿な私の話でもちゃんと最後まで聞いてくれるから瀬戸ちゃんはとても優しいと思う。真ちゃんだったら私の話なんて完璧に強制終了させられるし。

「それで?」
『どこの大学に行きたいんだ、って聞かれて…』
「聞かれて?」
『大学のことなんて1mmも調べてなかったから適当に聞き覚えてのある大学の名前を答えました』
「…なんて言ったんだよ」
『…東大』
「は?」
『だから!東大って言ったの!』

私の答えに面食らったのか「東大、東大…」と何回か呟いたあと、瀬戸ちゃんは突然爆笑し始めた。なんだか馬鹿にされているようで非常に不愉快である。私が不機嫌になったことに気がついた瀬戸ちゃんが謝ってはくれたものの。笑いが堪え切れてないから全くと言っていいほど誠意を感じることができないよ…瀬戸ちゃん。

「謝るからそんな顔すんな」
『むー。だってさ、』
「それで。花宮は何て言ったんだよ」
『…紙の無駄だって』
「金じゃなくて?」
『うん。紙だってさ』

私と瀬戸ちゃんの間になんとも言えない空気が流れて、しばらく無言になる。

「なんかあれだな」
『なに?』
「花宮が完全に岡本の保護者だな」
『たしかに!幼馴染というよりは保護者の方がしっくりくるかも!』


保護者ですから


「おい、玲。帰るぞ…ってまだ居たのか、健太郎」
「まぁな」
『はーい!真ちゃん!帰る準備だけは完璧だよー!』



2014.6.21