壁で守られた町は今日も平和だった。雲ひとつない晴天。大通りはたくさんの人で溢れていて活気付いている。わたしは人通りの少ない通りを走りながら、途切れ途切れではあるがその様子を見ていた。

「玲、待って!病み上がりなんだからそんなに走ったらダメだよ」
『アルミンは心配しすぎだよ。大丈夫、ちゃんと治ったから。はやくみんなで遊びたくて仕方ないの!』

後ろから幼馴染のアルミンが心配そうに追いかけてくる。熱もちゃんと下がったから大丈夫なのにな、なんて思いながら、適当なところで立ち止まってアルミンが追いつくのを待つ。

「玲、エレンもミカサも逃げたりしないから走っていく必要はないと思うよ」

あぁ。またやってしまった。膝に手をついて呼吸を整えているアルミンを見て、申し訳ない気持ちになる。わたしには、どうやら知らず知らずのうちにアルミンを振り回してしまう癖があるらしい。以前、ミカサが「エレンと玲は目が離せない」と言っていたのを思い出す。エレンみたいに無茶なことをした覚えなどないのだが、ミカサの隣でアルミンが大きく頷いていたから本当なのだろう。あのときの疲れ切った顔をしたアルミンの顔は今でも忘れられない。
膝に手をついたままのアルミンの背中をゆっくりと摩れば、少しずつ呼吸が落ち着いていく。

『ご、ごめんね、アルミン』
「だ、大丈夫。だけどもう少し待って」

そう言ってアルミンがわたしの服の裾を掴んだ。わたしがすぐに走り出してしまうと思っているのだろうか。アルミンに少しでも安心してほしくて、わたしの服を掴む彼の手をそっと握る。

『そうだよね。エレンもミカサも待っててくれるよね』

ふたりでゆっくり行こうか?とアルミンのほうを見れば、なぜか耳まで真っ赤になっていた。具合が悪いのかと聞けば、アルミンは「違う。具合が悪いわけじゃないんだ」とすごい勢いで首を横に振る。それから、上体を起こしたアルミンは突然わたしの手をひいてエレンとミカサの所へと再び歩き出した。わたしは引っ張られるがままにアルミンの後ろをついて行く。このとき繋がれた手から伝わるアルミンの体温がいつもよりも高いような気がした。





『ねぇ、アルミン』
「どうしたの?」
『お見舞いのときに持ってきてくれた本、面白かった』



2013.6.10