『おはようございます…』

寝室の扉をそっと開けて中に入り込めば、まだカーテンは全て閉まったまま。その為部屋は薄暗く、彼の規則的な呼吸音以外聞こえない。彼を起こさないようにゆっくりと近づいて、彼の顔を覗き込む。どうやら彼はまだぐっすり眠っているようだ。履いていたスリッパを脱いで体勢を整える。それから大きく深呼吸をして心の準備。

ーよし、今日もいける!

床を思いっきり蹴り、ベッドで未だに夢の中の彼に飛びつく。うぅと彼から唸るような声が聞こえたけれど毎度のことなので気にしない。

『グールース!起ーきーてー!』

1番上の掛け布団を捲ると、恨めしそうな顔でこちらを見上げる彼。

「ステラ…いつも言っていると思うのですが、その起こし方はやめてくれませんか?心臓がいくつあっても足りない、」

『ごめんなさい。でも、私ね。この方法以外で貴方を起こす方法が思いつかなくて』

「…分かった。この件についてはあとで相談しましょうか」

『うん。了解』

彼の頭が覚醒してきたところで、私はベッドからひょいと降りて窓際に足を進める。それから、ジャッと音を鳴り響かせて勢いよくカーテンを開ければ明るい光が部屋に差し込む。今日は天気もいいことだし、素敵な日になりそうね。
カーテンを留めて後ろを振り返れば、彼はワイシャツのボタンを留めている最中だった。

『お手伝いしましょうか?』

「必要ありませんよ。もう終わります」

そう言って手首のボタンを留める彼。誰にも言ったことはないのだけど、彼のボタンを留める姿が私は好きだったりする。だって、すごくかっこいいんだもの。

『今朝もコーヒーでいいかしら?』

「お願いします」

了解、と返事をして朝食の準備をしに行こうとすると、後ろから名前を呼ばれたので彼の方へ振り返る。やっぱり今朝はコーヒーな気分じゃない、とか?

『なーに?』

「おはようございます」

いつの間にか近くにいた彼に、額に唇を落とされる。時間にして、それは一瞬の出来事。だけど私はこの一瞬が大好きで

『グルス、おはよう』

この一瞬は、私を笑顔にしてくれる彼の素敵な魔法だと思うのです。


とある夫婦の朝

2017.2.5