どうも最近、彼は何かと私に頼みごとをする傾向がある。
「ねぇ、リセ。ネクタイを結んでくれないかな?」
『いや…私が結ばなくても自分でできるんじゃ、』
彼独特のふにゃりとした笑みを浮かべ、ネクタイを差し出す彼。今日は彼の公式試合でのコーチデビューの日だから正装に着替えたらしい。初めて近くで見るスーツ姿の彼があまりにも格好よすぎて、さっきからドキドキが止まらない。これでは彼が選手よりも注目を集めてしまう気がする。
「リセに結んで欲しいんだ…ダメ?」
彼は本当にズルイ。あのヴィクトルに、こんな風にお願いされて断れるはずないのに。
『わ、分かりました。やってみます』
覚悟を決めておずおずとネクタイを手に取ると、彼は更に満面の笑みを浮かべた。そして私はここでやっと気がついた。
『(少し屈んでもらわないと、私がネクタイ結べないのは分かるんだけど…顔が近い)』
口から飛び出そうになる心臓を落ち着かせるため、あまり意識しないようネクタイを結ぶことに集中することにした。そう…集中することにしたのだが、
『あの…そんなにマジマジと見られると緊張するんですけど、』
「大丈夫!緊張してるリセも可愛いよ!」
『いや、私が全然大丈夫じゃないです。』
彼から視線がすごく気になって全く集中できない。その上、くすくすと笑う彼の声も気になる。あまりにも気になったので、ちらりと彼を盗み見ると
『なんでそんなに嬉しそうなんですか』
「ん?なんだか新婚さんみたいだなぁ、って思って」
『なっ!?新婚さん!?』
「あ、そろそろ行かなきゃ!ユーリに怒られちゃう」
『え、嘘!?もうそんな時間、』
「ほら、リセ!頑張って頑張って!」
全く自分で結ぶ気のない彼からの声援を受けながらネクタイを結び。その後、なんとか私は無事に彼を送り出すことができた。
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「ねぇ、ヴィクトル」
「なんだい?ユーリ」
「なんでさっきからそんなに嬉しそうなの」
「ん?内緒」
2017.2.4
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