『ん…夢か、』

いつもより冷たい朝の空気とカーテンの隙間から溢れおちる光で目が覚めた。スマホで時間を確認すれば目覚ましをセットした時間の数分前だった。少し眩しい光から逃れるように枕に顔を埋め、大きく深呼吸。
すごく幸せな夢を見た。憧れのあの人にプロポーズをされるというなんとも畏れ多い夢。どういう設定なのかは知らないけれど、どこかの空港で飛行機に乗ろうとしていた私の腕を彼に掴まれたかと思えば突然、彼が片足をついて結婚指輪を差し出すといった内容の夢だった。思い出すだけでなんだかドキドキしてきた。お姉ちゃんにこの夢の事を話したらきっと「あんた、夢見すぎ」って笑われそう。
お兄ちゃんの応援に行った時に遠くから姿を見たことはあるけれど、話したことなんて一度もない。実際に彼に告白されるなんてことは天と地がひっくり返らない限りありえないから、私の見た幸せな夢リストにそっと追加しておくことにしよう。そんなことを考えていると、枕元でスマホが震えた。
ーそろそろ起きなきゃ。
ゆっくりと起き上がってカーテンを開ける。この時期にしては珍しく雪が積もっていた。通りで寒いわけだ。急いでハンガーに掛けてあるブラウスと制服を着て、髪を軽く整える。
ーはやくあったかい部屋に行きたい
ただその想いで、私は鞄を掴んで部屋を飛び出した。まさか憧れの、さっき夢で見た彼が我が家にやって来るとも知らずに。


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『あ、お兄ちゃん。ただい…ま!?』
「あ、理瀬。おかえり」
「ワァオ!ユーリの妹?よろしくね」
『え、え!?なんで、どうしてヴィクトルがここに…お兄ちゃん?え?え?』
「それがその…って、理瀬!?」

あぁ、遠くでお兄ちゃんの声が聞こえる。どうやら私は憧れの人を前にするとテンションがあがるでも泣くでもなく、気絶してしまうタイプの人間だったらしい。いつか王子様が私の目の前に現れてくれる、なんて夢見ていたけれど。
神様、こんな展開聞いてません!


2017.2.4