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 ウォーアイニー!


『このリボン、誰に渡そうかな』


わたしは誰もいない食堂で大きなため息をついた。

テーブルの上にはこの前、シュラちゃんにもらった一本の可愛いリボン。

このリボンにはどうやら、

「好きな相手に渡して、受け取ってもらえたらずっと一緒にいれる」

という噂があるらしい。


明日までに渡して、渡した相手を報告するようにとシュラちゃんに言われたのだけど

いまだに誰に渡すか決まらない。


候補としては、

燐ちゃんに雪ちゃん

メフィストさんにアマイモンさん

そして、シュラちゃんを考えている。


『うぅ。1人だけ選ぶなんてできないよ』


机の上にゴンッという音を立てて頭を乗せて呻いていると、

遠くの方からガチャっと玄関が開く音がした。

それから、ただいまー!と聞こえてくる燐ちゃんと雪ちゃんの声。


『(まだ、時間はあるから渡す相手を考えるのは夜にしよう)』


わたしは慌てて机の上に置いていたリボンをポケットの中に仕舞い込み、

ふたりをお出迎えするために玄関へと向かった。





******

次の日


「38.5度…完全に熱がでてるね」

「昨日まで元気だったのにな。

結、大丈夫か?」

『あ、うん。なんとか』


わたしはどうやら考えすぎて、熱をだしてしまったらしい。

知恵熱をだすなんて赤ちゃんかよ、と恥ずかしさから布団を引っ張って顔を隠す。


「でも、今日が日曜日でよかったよ。

平日だったら心配で学校どころじゃないからね」


そうなったらメフィストあたりがぶっ飛んで来そうだけどな、とゲラゲラと笑う燐ちゃん。


うん。わたしもそう思うよ、燐ちゃん。


ベッドに横になりながらふたりの話を聞いていると、

外から何かがものすごい勢いで近づいてくる音が聞こえた。


最初は気のせいかと思っていたが、

燐ちゃんと雪ちゃんも聞こえていたらしい。


私たち3人は一度顔を見合わせると、視線をドアの方へと移す。

それと同時にドアが壊れるんじゃないかというくらい勢いよく開き、


「結!具合は大丈夫ですか!?

この私が来たからもう大丈夫ですよ!!」


いつもの服の上に、何故か白衣を着たメフィストさんと


「結、大丈夫か?熱出したんだって?」


にやにや顔のシュラちゃんが部屋に入ってきた。

完全にシュラちゃんは、わたしが熱を出した理由がわかってるよ。

恨めしそうに布団から顔を出してシュラちゃんを見る。


「随分、真剣に考えたみたいな。

それで、渡す相手は決まったのか?」

『全然決まらなかったからこうなったんだよ』


むっと頬を膨らませれば

シュラちゃんに指で突っつかれて空気が口から抜けて行く。

テーブルのほうを見ると、メフィストさんが色々な薬を持ってきてくれたようで雪ちゃんと一緒に何かしているのが見えた。

ちなみに、燐ちゃんは見てるだけである。


「結ー!私を残して死なないでください!!」

「ただの熱なので大丈夫ですよ、フェレス卿」


メフィストさんは泣きそうになりながら、

ハサミで次々と薬が入っていると思わしきものを切って行く。

あ。私が粉薬嫌いなの覚えててくれたから錠剤持ってきてくれたんだ、なんて呑気なことを思っていると、あるアイディアが閃いた。


「シュラちゃん!

わたしの机の上に置いてあるあのリボンとハサミ取って!」

「んぁ?あぁ、わかった」


どうするんだ?と不思議そうにするシュラちゃんに見守られながらわたしはハサミを動かす。


そうだ。

このリボンを渡す相手は必ずひとりじゃなくていいんだよね!

チョキチョキと作業をしていると、

椅子に座っていたシュラちゃんが突然笑い始めた。


「にゃははは!その手できたか。さすが結だ」

『シュラちゃん、これもアリだよね?』

「あぁ、ばっちりアリだよ。

それにしても結は渡したいやつがこんなにいるのか」


私の手には一本のリボンではなく短い5本のリボン。

さっきメフィストさんがハサミで切っているのを見て思いついた結果がこれである。


5本あるうちの1本をシュラちゃんに差し出す。


シュラちゃんはまさか渡されると思ってもいなかったようで、

最初はきょとんとしていたけれどすぐに、ありがとなと言って受け取ってくれた。


無事に受け取ってもらえたことが嬉しくてシュラちゃんにぎゅーっと抱きつけば

シュラちゃんも負けじとぎゅーっと抱きしめてくれたのだが、


『(く、苦しい!!死にそうだよ!シュラちゃん、)』


抱き締める力の強さとシュラちゃんの胸のせいで

次第にうまく呼吸ができなくなっていくのが自分で分かった。


「シュラ!結が死にそうになってるぞ!!」

「え?あ、おい!結、しっかりしろ!!」


それから

焦ったような燐ちゃんとシュラちゃんの声を聞きながら

わたしは意識を手放した。




ォーー!



「なーんだ。

結の渡したかったのって、メフィストに燐に雪男だったのかよ。つまんねぇな」

「それ、さっき結を殺しかけたお前が言う台詞かよ」

「だってさ、燐は知りたくないのか?結が好きな人」

「まぁ…気にならないって言ったら嘘になるけど。結は俺の妹だし、」

「そうだろ?それより、メフィストと雪男はいつまでやってんだ?」

「結、最後の一本は誰に渡すのかな?僕に教えてくれるよね」

「結!私と結婚するって言ってくれましたよね?嘘だったんですか?」

『…(う、うるさくて寝れない)』


2013.10.7
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耶奈さん、リクエストありがとうございました。
遅くなってしまってすみません。(;´∞`)
いかがだったでしょうか。
妹ちゃんにどんなことを吹き込もうかと悩みに悩んだ結果、
今回のお話のようになりました。
時間を掛けたのですが、いつもの残念ぐだぐだクオリティーに....。
(お話を書く余裕ができたら、もう一度リベンジしたいです)
少しでも頂いたリクエストにお応えできた内容になっていればいいな、と思っております。
耶奈さん、素敵なリクエストをありがとうございました!

藤堂

*作業BGM:【ウォーアイニー/高橋瞳×BEAT CRUSADERS】