▼ 君の手を離さぬように
「結、まだ観るのか?
そろそろ戻らないと風邪をひくぞ」
『うん。もう少し観てるから』
宜野座くんは先に戻っててもいいよ?と言われたが
こんな夜中に結を1人にしておくわけにもいかない。
俺の隣でフェンスに手を掛けながら結は未だに夜の空を見つめ続けている。
同じように夜空を見上げるも、
街の灯りのせいで星なんてものは見えないに等しかった。
「(何が面白くてずっと観ているんだ)」
秋が近くなって来たせいなのか、最近の夜は冷える。
このままでは本当に風邪をひきかねないと思い
俺はコートを取ってくるために一係のオフィスへと戻った。
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コートを持って戻ってきても結は変わらず夜空を見つめ続けていた。
飽きることなく見つめ続ける彼女の瞳にはこの空がどのように写っているのだろうか。
後ろからそっと持ってきた俺のコートを掛けてやると、
そこでやっと結の瞳が夜空から離れた。
『オフィスに戻ったんだと思ってた』
「風邪をひかれると困るからコートを取りに行っていたんだ」
『宜野座くんのコートは?』
「結のように薄着じゃないから心配ない」
気を遣わせちゃってごめんね、と申し訳なさそうに謝る結。
そう思うなら室内にはやく戻ってほしいと心の中で思う。
結が再び空を見上げ始め
同じように俺も空を見上げる。
『宜野座くん、知ってる?
死んだ人はお星様になるんだって』
しばらく2人で見上げていると突然、結が話し始めた。
いつもの俺ならば「そんなことはあり得ないと」言うところだが
何故か今回は何も言えなかった。
『佐々山さんがね、そう言ってたの』
佐々山という言葉にハッとして思わず隣を見る。
そして、ここでやっと俺は結が空を見上げて必死に泣かないようにしていることに気がついた。
隣に並ぶ彼女の瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていた。
『佐々山さんがいなくなってからね、夜になる度にその言葉を思い出して佐々山さんを探してるんだけど全然見つからないんだ』
もう半年以上も探してるのに出てきてくれないなんて意地悪だよね、と困ったように話す結を見て何も言えなくなった。
あの事件から彼女はたったひとりでこの夜の空を見つめ続けてきたのだろうか。
きっと彼女のことだから毎日のように探し続けていたに違いない。
そして、たったひとりで涙を流してきたのだろう。
どうして1番近くにいたはずの俺が彼女の悲しみに気がついてやれなかったのだろうか。
結に何か声を掛けようと思っても上手い言葉が見つからない。
こういうとき、どうしたらいいものかと悩んでいると冷たい手が俺の右手に触れた。
冷たい手の持ち主はもちろん結。
「手、冷たいぞ」
『ごめん宜野座くん。
でも、しばらくこのままでいさせて』
結は未だに夜の空を見つめ続けている。
右手に乗せられた小さな手を離した後、
そっと彼女の手を包み込むように絡める。
「別にそれは構わないが、その代わり俺も佐々山探しに付き合わせてもらうぞ」
『へ?』
まさかの俺の返事に驚いたのか
結は目を大きく見開いてこちらを見た。
それからしばらくすると
彼女は嬉しそうにふわりと笑い
絡めた手をぎゅっと握り返してきたので
俺も負けじと握り返した。
君の手を離さぬように『今日も佐々山さん見つからないね』
「まさか星になっても矯正保護施設にいるんじゃないだろうな」
『ありえるかも。織姫様とかにセクハラして収容されてそうだよね』
2013.9.17
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ゆうりさん、リクエストありがとうございました。
今回はさよならララバイの過去編っぽい感じで書かせていただきました。
頂いたリクエストにお応えできた内容になっていればいいな、と願っております。
相変わらずの稚拙な文章で申し訳ないです。(;´∞`)
ゆうりさん、素敵なリクエストをありがとうございました!
藤堂
*作業BGM:【ロビンソン/スピッツ】