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 星屑ロンリネス

ある人物が世間を騒がせているという情報は、

公安局に勤めているわたしの耳にももちろん入っていた。




最初は偶然、彼と同姓同名の人物なのかと思っていたが


どうやら違うらしい。




わたしと旧知の間柄であるである槙島聖護こそが、

世間を騒がせている張本人であったようだ。






まわってきたファイルを端末で確認しながらため息をつく。




いったい彼は何をやっているんだか




プライベート用の端末の電話帳を開いて槙島聖護の名前を探す。

フェンスのそばに立って夕陽が沈むのを見ながら相手が電話に出るのを待てば、

思ったよりもはやく呼び出し音が途切れた。




「珍しいこともあるものだ。結から僕に電話をしてくるなんて」

『わたしが電話するのなんて分かっていたくせに』

「さぁ。どうだろうね」




続けて、くすくすという笑い声が聞こえる。

きっと電話の向こうの彼は嫌な笑みを浮かべているに違いない。




『最近、ずいぶん派手にやってるみたいだね』

「確かに以前と比べたら派手かもしれない。

だけど、僕がこれからしようとしていることに比べたらちっぽけなものさ」

『仮にもそういうことを公安局の人間に話しちゃう?』

「もちろん結だから話しているのさ」




結は僕のことを裏切らない

そうだろう?





自信満々に言い切ってくる上に、図星だから腹が立つ。




「結が僕のために、公安局の中にある僕に関する情報を片っ端から書き換えてくれていたのは知っていたさ」

『なっ!?どうしてそれを...』

「僕が知らないとでも思っていたのかい」





何でもお見通しといった話し方をする彼。



あー。なんだ知られていたのか



フェンスに背を預けて暗くなった空を見上げる。



結局、わたしも彼の手駒のひとつだったということだろうか



もう乾いた笑い声しかでてこない。





「結」

『なに』

「今日も、月が綺麗ですね」





突然の彼の言葉。

この言葉の真意なんて彼にしかわからない。




だけど、

どんな意味であろうと

わたしが返す言葉は決まっている。






『そうだね。

今日も月が綺麗ですね』






彼はひどい人だと思う。

ときどき見せる優しさでわたしを縛って、

簡単に離してくれないのだから。





だけど

彼のためにこの世界なんて壊れてしまえばいいと思っているわたしは

彼よりもひどい人間なのかもしれない。







ンリ






(世界を敵にまわしてでも)

(わたしは貴方の笑顔が見たい)


2013.3.18
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イツキ様リクエストありがとうございました。
今回の槙島さん夢はいかがでしたでしょうか?
少し切ない感じに仕上げてみました。
今回は夏目漱石の「月が綺麗ですね」を使ってみました。
二葉亭四迷の「死んでもいいわ」も使おうかと思ったのですが今回は諦めました。
相変わらずの稚拙な文章になってしまい申し訳ないです(>_<)
最後に、素敵なリクエストをありがとうございました!
藤堂