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 飛べないカナリア

聖護くんからひとりで出掛けないようにと言われていたのに、

約束を破ってしまったのがそもそもの間違いだった。



『どうしよう、』



わたしは後ろから追いかけてくる公安局の刑事たちを撒くために

必死に人混みの中をかきわけて走っていた。






***




聖護くんとグソンさんが用事があって出掛けたあと


あまりに天気がいいものだから、わたしもこっそり散歩がてら外に出掛けることにした。

わたしはどうやら聖護くんと同じ免罪体質者というものらしく、

規定値を超える犯罪係数が計測がされないらしい。




それだけなら別に問題ないんじゃないのかな



そんなことを街中を歩きながら能天気に考えていたときだった。

公安局の刑事に声を掛けられたのは。




「白川結さんですね?ご同行願います」





何の理由もなく、いきなり同行を求められてどうしていいかわからなかった。

そもそも聖護くんたち以外の人に声を掛けられるなんてことはこれまで全くと言っていいほどなかったから。

ゆっくりと近づいてくる手が怖くて、わたしは咄嗟にその場から逃げ出した。




そして、冒頭に至る。




自分の荒い息づかいしか聞こえない。

基本的に部屋に篭ってばかりいるわたしと後ろから追いかけてくる男性とでは、

体力の差がわかりきっている。




そろそろやばいかもしれない




脚が鉛のように重く、膝が面白いほどがくがくと震えてきた。





人の多い大通りから狭い路地裏に入り、ひたすら走る

すると突然、後ろからつよい力で腕を掴まれて建物に引きずりこまれた。




明るい場所からいきなり暗い場所に連れ込まれたものだから、

目が暗さに慣れなくて目の前に広がるのは闇。




ちゃんと聖護くんの言うことをきいておけばよかった




もう彼に会えないのかと思うと涙があふれる。




『聖護くん、ごめんなさい』

「本当だよ。この僕に心配させるなんて」




どうしてここに?なんて尋ねる暇なく、ぐいっと彼の胸に引き寄せられた。




「帰ったら結がいなかったからとても驚いたよ。

しかも、見つけたと思えば公安局の刑事に追いかけられていたし」



心配させないでくれ、と聖護くんがわたしの頭をゆっくりと撫でる。




「天気も久しぶりによかったしね。外に出たくなった気持ちも分からなくもない。

それに、今回は外出させない理由を結に伝えなかった僕も悪かった」




聖護くんがわたしの頬に手を添えて、お互いのおでこを合わせる。




「怖かったかい?」

『うん。だけど、聖護くんに引きずりこまれたのが1番怖かった』

「それはすまなかった」





聖護くんは謝るわりには、にこにこと笑っている。

男性なのに綺麗な顔をした聖護くんは、わたしが落ち着いたのを確認するとスッと立ち上がった。

そして、未だにぺたんとしゃがみ込んでいるわたしにそっと手を差し出す。




「さぁ、結。帰ろうか」




差し出された手に、躊躇うことなく自分の手を重ねる




『そうだね。帰ろう』





これからもきっと、こんな風に

わたしは迷わず彼の手を取り続けるのだろう







ナリ






(籠の扉があいていたとしても)

(わたしは、貴方のそばに居続けるわ)


2013.3.17
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イツキ様リクエストありがとうございました。
槙島さん夢を初めて書いてみたのですがいかがでしたでしょうか?
リクエストに応えられた内容になっているかかなり不安ですが
なんとか書きあげることができました。
これから短編のほうで槙島さんも取り扱っていけたらなと思っております。
今回も相変わらずの稚拙な文章になってしまい申し訳ないです(>_<)
最後に、素敵なリクエストをありがとうございました!
藤堂