『宜野座くん、前髪邪魔じゃないの?』
「それほど邪魔ではない」
『狡噛くんが気にしてたよ』
「あいつはそんなことを気にしてるのか」

背中合わせに座りながら会話をする。私は雑誌を、宜野座くんは難しそうな本を読んでいる。いまどき紙の本を読んでいる私たちは珍しい部類にはいるのだろう。

『読むの飽きちゃった』
「そうか」

静寂が部屋を包む。体の向きをかえて、彼の背中にこつんと額をあてる。

「何か嫌なことでもあったのか」
『ん?まぁね』

宜野座くんは私の行動パターンをだいたい把握している。だからこの行動の意味を理解してくれているし、私が話し出すまでいつも待っていてくれる。

『今日ね。他の課の人に言われたんだ。あんな子が刑事課にいるなんておかしいって。』

そんなの私が1番わかってる。面と向かって言わなくたっていいじゃないか。文句ならシビュラシステムにいってくれ。宜野座くんのシャツをぎゅっと握る。ごめんね、シワになっちゃうかもしれない。

「言わせておけ。シビュラに選ばれなかったことを妬んでいるだけだ」
「瑠璃は、瑠璃らしくいればいい。まわりのやつの言うことなんて気にする必要はない」

宜野座くんの体が前に傾いたかと思えば、一瞬で宜野座くんの胸元に引き寄せられた。

「泣きたいなら泣いておけ。でないと色相が濁るぞ」

この言葉が引き金になってしまったのか、私の中で我慢していた何かがあっという間に崩れてしばらく涙が止まらなくなってしまった


いたっていいじゃないか


「泣きやんだか?」
『うん』
「じゃあ、いつも通り元気だせ」
『宜野座くんの前髪切ったら元気になれるかも』


2013.2.10