『宜野座くん、こっちにおいで!』
「ギノ、こっちだ」

一係に戻ると、犬を呼び寄せるときのように腕を広げている瑠璃と狡噛がいた。

「(来いと言う前に自分から来ればいいんじゃないのか...。)」

近くにいた常守監視官にこのよく分からない状況の説明を求めたが苦笑いをするだけ。
未だに瑠璃と狡噛は俺の名前を呼んではこっちに来いと言い続けている。

「いったいなんなんだ」
「宜野座さん、とりあえず進んであげてください」
「そうそう!朱ちゃんの言う通り、本能のままにどっちか選んで行っちゃってくださいよ」

はい、しゅっぱーつ!と縢に無理矢理背中を押され、とりあえずふたりの前まで進む。瑠璃と狡噛はまだ腕を広げつづけていている。

「ギノ、俺だろ?」
『宜野座くん!私だよね?』

意味ありげなふたりの言葉にどちらのほうに行けばいいのか迷ってしまう。これにいったい何の意味があるのか全く分からない。とりあえずここは、狡噛にしておくか。そう思って一歩踏み出すと瑠璃の顔が今にも泣き出しそうになっているのが見えた。どうしたのかと心配になって瑠璃の前でしゃがむと、正面からギュッと瑠璃に抱きつかれた。あまりの勢いに倒れそうになったがなんとか持ちこたえる。

「瑠璃!?」
『宜野座くん、ありぃがぁどー!』

泣きじゃくりながら瑠璃は肩のあたりに頭をぐりぐりと押し付ける。本当にいったい何なんだ。とりあえず瑠璃の好きなようにしていると狡噛が煙草を咥えながらやって来た。

「よかったな、瑠璃」
『うん。狡噛くん、ありぃがどぉうぅっぅ!!』

目の前で繰り広げられるふたりの会話にまったくついていけない。

「どういうことだ狡噛」
「ギノ、今日が何の日か知ってるか」

今日は8月9日。とくにこれといったものが思いつかない。

「今日はハグの日なんだと」
「ハグの日?」
「8月9日でハグの日」

ハグの日ということは分かったがそれがどうしてさっきのようになるのか。意味が分からないという顔をしていたのか、狡噛は俺を見てため息を吐いた。

「瑠璃がお前とハグのしたかったんだとよ」
「それなら、狡噛は必要なかっただろ」
「そうだな。でも、楽しそうだったからな」
「何がだ?」
「あのままギノが俺のところに来て、俺が抱きついたときの反応が、だ。」
「なっ!?」


ハグしたっていいじゃないか


『ぎぃのざぁくん、私のほうにぎてぐれて、ありぃがどぉー!』
「瑠璃、分かったからとりあえず泣き止んでくれ。(狡噛のほうに行きかけたなんて絶対に言えない)」


2013.8.9