メルが眠りについてから、僕は自分のアルバムに隠しておいた手紙を魔法で取り出す。死ぬ3日前に書いたその手紙。泣いてばかりのメルに、手紙を探させるのはもう止めようと何度か思ったけれどそうしなかった。彼女の中から自分の存在を消してしまいたいと思う一方で、覚えておいてほしい、忘れないでいて欲しいと思っている自分がいる。

「結局、僕は自分のことしか考えていないんですね」

彼女が苦しんでいても、悲しんでいても、今の自分ではそばにいる事しかできないのだ。

『レギュラス?』

眠ったはずのメルから声をかけられ、急いで手紙を戻してそばに行く。

「メル、どうかしましたか?」
『なんだか、レギュラスが泣いている気がしたから』

そう言われて、ぎょっとしたが記憶の自分ではそんなことはあるはずがない。

「いえ。僕は大丈夫ですよ」

だから、安心して寝ていてくださいと言えば、少し苦しそうに微笑みながら実体のない僕の頬に手をそえた。

『レギュラスは嘘つくのが下手だね』

その後、彼女の手はゆっくりとベットの上に落ちていく。どうやらまた眠りについたようだ。
メルはいつもそうだ。他人にはバレなかった嘘でも簡単に見破って、僕の異変に最初に気づく。だけど、深く追求しようとはしないで、僕から話しだすのを待っていてくれた。たぶんそんなメルだったから僕は惹かれたんだろう。彼女の手にそっと自分の手を重ねてみる。僕の体は透けているのだから、相手の体温を感じ取ることなんてできないはずなのにメルのあたたかさが伝わっているような気がした。
さっきの手紙を書いた時も、僕の異変に気がついていたのはメルだけだった。あのときも何も聞かないで、大丈夫だよと言ってくれた彼女の姿が蘇る。どんなに寒い冬でも、暗闇が支配する夜でも、僕にあたたかい光をあたえてくれたのは貴女だった。





(もう一度、貴女のその手を握りしめることができるなら)
(愛おしくて、愛おしくて)
(きっと、僕は泣いてしまう気がする)


2012.12.18
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【六花譚/元ちとせ】