レギュラスが残した手紙を探し始めて今日で4日目。
最初の頃は手紙を読むと、ただ悲しくて泣いてばかりだったけれど手紙を探すのが楽しみになってきた。レギュラスでもこんな遊び心を持っていたりするんだとか、あんな風に手紙を書くんだとか、生きていた時には知らなかったことばかり。もっとレギュラスが好きになる。最近では、本当に彼は死んでしまったのだろうかと思ってしまうことがある。たぶん、それは記憶のレギュラスがそばにいてくれているからだと思う。

『そういえば、記憶のレギュラスは何歳なの?』
「それは内緒です。それよりもはやく手紙を探してください」

口じゃなくて手を動かすように言ってくる彼は、本当に何歳なんだろう。

『レギュラスのケチ・・』
「何か言いましたか、メル?」

笑顔全開でこちらに黒いオーラを向けてくるレギュラスに恐怖を感じ、とっさにいいえと返してしまう。このパターンは学生時代から変わらない。悲しいことに。


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それからずっと探し続け、見つけた時にはすでに夜の8時をまわっていた。

『バカレギュラス!鞄だけじゃ分かるわけないじゃない』
「これまでの隠し場所から判断すれば、僕の所有物に隠され得ていることくらい簡単に予想がつきますよ」

レギュラスの正論に返す言葉がなくて黙っていると、開けたらどうです?と彼が言った。
今日の封筒はいつもより薄いなー、なんて思いながら開けると中にあったのは手紙ではなく1枚のカードだった。

“メルにも、今日の月が見えていますか?”

これまでの手紙と違って、とても綺麗なカードに書かれた1行だけのメッセージ。窓に近付いて夜の空を見上げれば、澄みきった空に浮かぶ三日月が見えた。

『うん。ちゃんと見えてるよ』

このつぶやきはいつものように消えていくはずだった。いつものように。

「泣き虫ですね。メルは、」

これだから心配で1人置いていけないんですよ。手紙を読んでいるときには絶対に姿を見せなかった記憶のレギュラスがやれやれといった様子で、座っている私の隣にしゃがみ込んだ。私、いつの間に泣いていたんだろう。

『珍しいね。今日はどうしたの?』
「今日は、その手紙に付け足しをしようと思いまして」

何も言わないで聞いててくださいねと言われ、うんと返事をして彼を見つめる。

「このカードを書いたのは、僕が死ぬ10日前に泊りがけで仕事に行ったときです。今日のように月が綺麗な夜でした。仕事を終えて、部屋に戻ったときに僕は違和感を感じたんです。それが何なのか、分からないまま寝ようとしました。だけど、なかなか眠れなくてベランダに出てみることにしたんです。しばらく夜の空を眺めて、寒くなってきた頃にようやく僕は違和感の正体に気がつきました。
あぁ。隣にメルがいないんだ、と。
泊りがけの仕事なんてたくさんしてきたはずなのに、今更だなと思いました。でも、僕はそれほど今までメルに依存していたのだということに気がつきました。そして、僕がこれからやろうと思っている事は、メルにずっと寂しい思いをさせることになるということにも。
メルに覚えていてほしいんです。
僕がどんな姿になっても、どこにいても同じ空の下にいて、メルのそばにいるということを。だから、嬉しいことも、辛いことも、全部空に向かって話してください。僕はちゃんと、メルのどんなに小さな声でも聞き逃さないで聞いていますから、ひとりで抱え込んだりしないでください。僕は世界で一番、メルが大好きですよ。」

昔から大好きだった、ふわりと笑うレギュラスを見て再び涙が溢れだした。私の体に触れることはできないけれど、いつものように抱きしめようとしてくれる彼の優しさに私の涙腺は完全に崩壊した。





(君がいない夜だって no more cry)
(頑張るから、強くなるから)


2012.12.18
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【三日月/絢香】