レギュラスと一緒に何処かへ出掛けたクリーチャーが1人で帰ってきた。何も話そうとしないクリーチャーを見て、私はこのとき既に何かを覚悟していたのかもしれない。ふと、窓から見上げた空は暗くなっていて、蒼い月がのぼりはじめていた。
寝る支度をしていると扉から控えめなノック音。どうぞ、と声をかけば扉がゆっくりとひらく。扉の向こう側には予想通りクリーチャーの姿があった。

『レギュラスのことでしょう?』

こくりと首を縦に動かしたクリーチャーの手を引き、ゆっくりと自室の扉を閉める。それから私は彼からレギュラスの死を伝えられた。

「メル様は、クリーチャーのことを怒らないのですか?」
『うん』
「どうして…」
『だって、クリーチャーはレギュラスの指示に従っただけだもの』

だから貴方は何も悪くないんだよ。私はギュッと泣きだしそうな小さな彼を抱きしめる。自分の声が震えていることに今更ながら気がついた。目の前が霞んでいるような気もする。さっきまでは普通だったのに、“レギュラス”って言葉に出して言うのが苦しくて、辛い。

『レギュラスは幸せだったよ。最期まで大好きなクリーチャーと一緒で嬉しかったと思うよ』

今まで黙っていたクリーチャーがぽつりぽつりと話し始める。

「レギュラス様は最期までメル様のことを気にかけておられました」
『そっか・・』

今度は私が黙ってしまう。「それで、」とクリーチャーが話を続ける。

「メル様にお渡ししたいものがございます。レギュラス様からでございます」

クリーチャーは私にそっと封筒を差し出す。それを受け取り、開封すると中には1枚の手紙と綺麗に装飾された懐中時計。二つ折りにされた手紙を読もうとするとクリーチャーに自分が部屋から出てから読んでほしいとお願いされた。目を真っ赤にしたクリーチャーに挨拶をして見送った後、窓際に置かれた2つの椅子のひとつに座って夜空を見上げる。

『バカレギュラス・・・』

私のつぶやきは暗い、静寂の中に消えていく。手紙を読んで泣いたことも、懐中時計を抱きしめて眠りについたことも、すべてを見ていたのは今夜の蒼い月だけだった。


ルツ


(こんなに月が蒼い夜は、不思議なことが起きるよ)
(眠れぬこの魂は、貴方を捜し森の中)


2012.10.24
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【月のワルツ/諫山実生】